それで充分だ
そうして牛乳も何とか購入すると、キコリとオルフェは家への道を戻っていく。
牛乳を売っていた店の店主もやはり絶妙にこっちを嫌がっている態度だったが……まあ、売るものを売ってくれるなら何も問題はない。
あえて言うなら値段がちょっとだけ高い気もしたが、誤差の範囲内だ。
「買い物するだけで結構疲れるな……」
「問題のない程度に嫌がらせしてくるのがムカつくわね」
「まあ、問題がないなら別にいいさ。ずっと此処で暮らすわけじゃないしな」
「そうかもしれないけど」
言いながら歩いていると、横を通り過ぎた犬獣人の冒険者がチッと舌打ちをする。
「普人がよお……此処を掻き乱して何が楽しいってんだ」
「おい、やめとけ。お前も殺されちまうぞ」
「殺せばいいだろうがよ。俺等を全員ぶっ殺して、防衛伯様とアイツ等とでどうにかすりゃいいんだ」
言いながら歩き去っていく冒険者たちをオルフェが剣呑な視線で睨んでいたが、キコリは「オルフェ、帰ろう」とスタスタと歩きだす。
「ちょっと、言わせといていいの!?」
「いいさ。たぶん多かれ少なかれ、アレが大体の意見なんだろうしな」
蜥蜴獣人以外は、皆あんな感じなのだろう。
付近から突き刺さる視線が、それを証明している。
結局のところ「何が正しいか」なんていう理屈は感情の前では何の意味もないのだろう。
押さえつけたところで、心の中で何を思っているかまでは止められない。
そしてキコリは……別にそれにどうこう言うつもりもなかった。
誰が誰を不快に思うかなんてのは、自由だ。嫌うなら嫌えばいい。
それで実害が出ないなら、どうでもよかった。
「俺にはオルフェがいる。それで充分だ」
「はあー?」
キコリの言葉にオルフェはそんな声をあげると、キコリの肩に降りる。
「違うでしょ。あたしがアンタの側に居てあげてんのよ!」
「一緒じゃないか?」
「いーや。大分違うわよ」
「そっか。ならそれでいいさ」
「感謝なさいよ」
「してるさ」
「どうかしら」
そんな事を言い合いながら、キコリ達は家路を進む。
幸いにも絡んでくる者がいるわけでもなく、家に何か悪戯をされているわけでもなく。
戻ってシチューを作って、2人で向かい合って食べる。
オルフェが手伝うには色々と無理があるのでキコリがほぼ1人でやったようなものだが、これはこれで楽しいものだった。
「で、明日は何処に行くのよ」
小さなスプーンでシチューをかき混ぜていたオルフェが、ふと思い出したようにそう声をあげる。
「明日、か。魔石は集めるけど……どうするかな」
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