最後まで失わなかったもの

 瞬間、キコリの流し込んだ「破壊」が押し返されてくるのを感じた。それが「何故か」など、考えるまでもない。


「お前……!」

「ハハハハハハ! 面白い、面白いぞ! 破壊を概念として捉え、それを相手に押し付けるか! しかし、しかしだ! それはもう通用しない!」

「ぐっ……」


 崩壊しかけていたゼルベクトから、破壊の力がキコリに流れ込んで来ようとしている。しかし、此処で止めることはできない。

 ゼルベクトの言う通り、この攻撃にゼルベクトは耐性をつけようとしている。そして、キコリの「ブレイク」そのものを理解している。

 此処で仕留めることが出来なければ、ゼルベクトに対するキコリの手札はゼロになる。


(どうする……どうすれば……!)


 そして、それ以前に。このままではキコリの身体が崩壊する。ゼルベクトの放つ破壊の力に、そして何よりも。全力で放ち続けているブレイクのエネルギーに、キコリ自身が耐えられない。


「キコリ……! おいシャルシャーン! どうすりゃいい! 攻撃していいのか⁉」

「いや、ダメだ。あそこに下手な干渉をすればどうなるか分からない」


 アイアースとシャルシャーンがそんなことを言っているのが聞こえてくる。

 分からない。どうすればいいのか分からない。分からないままに、キコリは全力でブレイクの力を流し込んでいく。この均衡が崩れれば、キコリが死ぬ。ここでやめれば、キコリのブレイクは2度と通じない。なら、どうするか。


「ああ、そうか」


 気付く。いや、改めて思い出す。

 キコリには魔法の才能がない。会う者皆に言われる程度には、才能がない。

 それはドラゴンとなってもなお変わらない。変わらないが……この状況は、それが招いているとは言えないだろうか。

 キコリが、キコリであることに固執するが故に。キコリが、この形を捨てていないからこそ、そうなのではないだろうか?

 もっと。もっと、この状況に適応できるように。もっと、力を振るうことに適した姿に。

 たとえば、アイアースは巨大なクラゲの姿を持つという。

 たとえば、シャルシャーンは本来は黄金のドラゴンであったという。

 たとえば、グラウザードは銀色のドラゴンだった。

 たとえば、ドンドリウスは。たとえば、ユグトレイルは。たとえば、ヴォルカニオンは。

 皆、そうだ。力を振るうのに適した姿になっている。

 けれど、キコリはなっていない。

 約束したくせに。帰ってくると、そう言ったくせに。こんな些細なことに、こだわっていたというのか。


「そうだな。俺は、何を勘違いしてたんだろう。才能なんか、微塵もないくせに」


 キコリの身体が、ミシリと音を立てて軋む。キコリにほんの僅かだけ残ったもの。

 最後まで失わなかったものの、1つ。その姿が……違うものに、変わりつつあった。

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