こっちの道に来たらダメな奴だったんだ

 腕が、変化していく。腕鎧を纏う手が、竜鱗そのものに変わっていく。

 身体が、足が……そして頭部が。ドラゴンそのものへと変化していく。

 そして、その身体そのものが大きさと重量を増して。漆黒のドラゴンがブレイクを発動させたままゼルベクトをその重量で押し倒す。


「ぐ、が……おおおおお!」


 そのキコリの身体を弾き飛ばして、ゼルベクトは立ち上がりキコリを見据える。

 そう、それは漆黒の龍鱗を持つドラゴン。そうとしか呼べない巨体が、そこに在る。

 だが……分かるものには分かるだろう。それは破壊の力を纏うドラゴン。それは、最も新しきドラゴンの行きついた姿。それは、不可逆の進化の果て。失い続けた先の、最強の肉体。

 

「そうだ。あれこそが『死王のキコリ』。見ろよ、ただのちっぽけな人間でしかなかった彼が! 自己犠牲無くしては何も得ることのできなかった彼が! 今こそ、真のドラゴンとして生まれたんだ!」


 キコリの拳がゼルベクトへと叩き込まれて。お返しとばかりにゼルベクトの6つの拳がキコリへと叩き込まれていく。「破壊魔法ブレイク」の力を込めた拳の打ち合いは、その1発1発が必滅。

 破壊神と打ち合う破壊竜。世界を壊す神と、世界を守るドラゴンの戦いは、すでに他のドラゴンですら迂闊に手を出せるものではない。


「キコリは実に素晴らしい人格者だった! これほどの力、大抵の人間は歪み驕り、自らこそが神の領域に到らんと夢想し! そうして結局はゼルベクトへと到るというのに! 見ろ、彼は未だに誰かのために戦っている! ああ、まさに喝采に値する! これこそが神々が人に望んだ美しき心! 彼がそれを得ているのは実に皮肉だが! そうであるという事実そのものをボクは喜ぼう! 神々よ、大神よ! 彼こそが貴方達たちの望んだ守護者の果ての形だ!」

「うるせえよカス」


 両腕を広げ叫ぶシャルシャーンを、アイアースが蹴り飛ばす。イラついたから蹴った。素晴らしいことのように言うシャルシャーンに、そしてこの戦いに手出しできない自分に。どうしようもなくアイアースはイラついていた。

 自分たちの力は強すぎる。そして広範囲攻撃に特化しすぎている。だからこそ、あの戦いに割り込めばどうなるか分からず手出しが出来ないのだ。


「何をそんなに素晴らしがってるのか知らねえけどよ」


 けれど、そんなアイアースでもただ1つ言えることはある。


「あんな空しいものがあるかよ。アイツはああなるために生まれてきたわけじゃねえ」

「彼が望んで辿り着いた姿だろう?」

「そんなだからテメエはダメなんだ。ああ……そうだな。きっとアイツは、こっちの道に来たらダメな奴だったんだ」

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