それでも、魂が巡るなら

 適応した。破壊の力に適応し、出力を安定して出せるように適応し、人間の姿を捨てた。

 黒いドラゴンとなったキコリはすでにブレイクの魔法を呼吸するのと同じくらい簡単に出せるようになっている。

 しかし、それはゼルベクトも同じだ。だから、これは一撃ごとに心臓に刃を突きつける殺し合いだ。負けた方が微塵と消える、そんなブレイクの撃ち合い。

 手数だけならキコリが負けてはいるが、これはそんなものは関係ない。ブレイクによる破壊の押し付け合い。抵抗に失敗したものが負けるという、ただそれだけのシンプルな論理。


「フ、ハハハハ! まさか現地に適応した我と戦うことになるとは思ってもいなかったぞ!」

「黙れ。俺はお前とは違う!」

「何が違う! その破壊の力、正しく我! 生まれ変わったとて託された願いは消えぬぞ!」

「何が願いだ……! 俺はそんなものは認めない!」


 破壊神ゼルベクト。託された願いを実現するために生まれ続ける、ある意味で純粋な信仰による神。けれど、それは絶対に認められないからこそ。キコリはここで負けるわけにはいかない。


(足りない……これじゃ勝てない……!)


 まだ足りない。まだゼルベクトを倒すだけの力が足りていない。エネルギーはほぼ無限。足りないのは出力だ。それは単純に身体の問題。だからこそ、キコリの身体はその内部を更に変化させていく。より強力なブレイクを撃つ。確実に勝つ。ただ、そのためだけに。

 それは……その後のことなど微塵も考えない、勝つためだけの変化。そうしてしまえば、キコリの身体に何が起こるかしれたものではない。

 今までだって、そうして限界を超えた結果失い続けてきた。それでも、此処で負ければ全てを失ってしまう。大事なものも何もかも、ゼルベクトに破壊されて消える。

 それだけは、絶対に許せないから。だから、たった1つの大切なものだけを残して。キコリは、それ以外の全てを捨てると決めた。


「……ごめん、オルフェ」


 それでも、魂が巡るなら。ゼルベクトがキコリになったように。いつかまた、この大地に降り立つのなら。


「絶対、帰ってくるから。だから……行ってくる」

「貴様。それは。そこまでして」

「ゼルベクト。俺は……お前を殺す」


 そうしてキコリは、最後の魔法を放つ。この一撃で、最後。この一撃が全て。その魔法の名前は。


「ブレイク」


 破壊魔法ブレイク。キコリの身体すらもその発動に耐えられず崩壊するほどの一撃がゼルベクトを破壊して。キコリの身体も……その欠片すらも残さず、消えていった。

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