たぶんその世界には

 最後に、3つ目。このフレインの町は単体で機能し完結する場所であるということだ。

 井戸にトイレ、それに町から離れた場所に農場や牧場もあるという。

 キコリとて馬鹿ではないから、下水道の存在くらいは知っている。

 ニールゲンにも下水は存在し、清掃ギルドがその清掃を担っていたことも知っている。

 このフレインの町の下水がどうなっているかは知らないが、しっかりと機能するなんらかの設備が存在している。農場や牧場だって、なんとなくで運営できるものではない。

 しっかりとノウハウを必要とするものであるし、このフレインの町にはそのノウハウが存在しているということになる。

 もっと言えば妖精の村やオークの集落を見たことがあるだけに、かなり文明レベルに格差があるのが明確に分かってしまう。

 とはいえ、だ。それはやはりこの町の文明レベルが高すぎるだけの話ではある。


「前向きに考えよう。此処に安全な拠点がある。それで済む話だからな」

「まあ、確かにね」

「うむ」

「最初っからそれで済んでた話だろうによ」


 アイアースが悪態をついているが、さておいて。

 この町には銭湯もあったので、旅の汚れもすっかり綺麗になっている。

 まあ、客はゴブリンコボルトスケルトンにオークにオーガ、バードマンと様々だったが、しっかり「銭湯のルール」を守っていたのは面白い姿ではあった。

 ふと窓の外を見れば夜が近くなってきたせいかゴーストの群れが浮遊しているが、家の中に入ってくる様子もない。


「他種族の町……か。こういうことが出来たなら、人間と共存出来た未来もあったのかもな」

「無理でしょ。少なくとも妖精は人間嫌いだし」

「ああ、そっか。いきなり焼き殺そうとするもんな」

「そうね」


 オルフェがそっぽを向くが、さておいて。ゴブリンもオークもこちらを見れば襲ってくるものばかりだから、現実的には難しいのだろう。


「なんだよ。共存してえのか?」


 アイアースに言われて、キコリは考える。

 モンスターと人間が共存したとする。その場合、かつてのキコリはどう生きればよかったのだろうか?

 少なくとも冒険者という職業はなかったかもしれない。そうすると、キコリは……はたして、マトモに、あるいは無事に生きていたのだろうか?

 答えは恐らく否だ。きっと、何処かで野垂れ死んでいただろう。

 命を全賭けする仕事しか出来ていないくせに、随分と偉そうなことを考えているとキコリは自嘲する。

 そして、キコリはアイアースへと複雑な笑みを見せる。


「……それが理想なんだろうけどな。たぶんその世界には、俺の居場所はなかったよ」

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