最初の異世界人

「本を読んでたのか」

「ええ、そうよ」

「俺たちは必死でオルフェたちを探してたのに……」


 少し恨みがましくキコリがそう言えば、オルフェは「あー……」とバツが悪そうに頬を掻く。


「どう見ても怪しい場所だったから、あんまり動かないようにしてたのよ。で、何処で待ってようかと思ったんだけど……此処が丁度良さそうだったしね」

「そうか。それは正解だったかもしれないな」

「ふぅん? その言い方だと、そっちは何かあったのね」


 そうして、キコリはオルフェに先程離れてしまってからあったことを話していく。

 頷きながら聞いていたオルフェだが、全て聞き終わると「なるほどねえ……」と噛みしめるように唸る。


「メモリースライム、か。妙な本や家具があるなと思ってたけど、そういうことね」

「分かるのか?」

「そりゃ分かるわよ。読めない本に、明らかに配置のおかしい家具。疑うなってほうが無理よ」

「ああ、そういう……此処自体がおかしいから、そういうもんなんだろうと思ってたよ」

「異常、だっけ。そういうのがあるのは知ってたけど、見るのは初めてだわ」


 言いながら、オルフェは感慨深そうに微笑む。


「どぉでもいいがよぉ。合流出来たんならさっさと出ようぜ」

「それもいいけど、あたしだって此処で無為に過ごしてたわけじゃないのよ」

「意味が分からねえ。住む気か?」


 好きにしろよ、と吐き捨てるアイアースに、オルフェは「違うわよ」と否定する。


「この屋敷のことよ。どうやら、世界が『こう』なる前のものらしいわよ?」

「あー」

「はあ……」

「え、何よその反応」


 予想外だというようにギョッとするオルフェに、キコリとアイアースは顔を見合わせる。


「えーと、なんていうか……」

「見りゃ分かんだよ。こんなとこにおかしなことになった人間の屋敷がありゃあ、空間が歪む前の代物に決まってんだろうがよ」

「うっ。それはそうだけど。『生きている町』の事例もあるじゃない」

「なんだそりゃ」

「話せば長いんだが、『創土のドンドリウス』の部下だか配下だかってのに会ってさ。その時にな……」


 キコリの説明を聞いてアイアースは「あー」と納得したような顔になる。


「なるほどな。それなら納得だ。で? お前が得た成果っつーのはそんだけか」

「うっ、違うわよ。ただ……推論レベルなのよね」

「言ってみろ。この俺様が判定してやらあ」

「おいアイアース……」

「うるせー黙っとけ。ガラじゃねえのに親切してやろうってんだ」


 アイアースに言われキコリが黙ると、オルフェは意を決したように「そうね」と呟く。


「アンタなら知ってるのかも」

「前置きは要らねえよ。簡潔に言え」


 そうアイアースが手をヒラヒラと振って促せば、オルフェは「それ」を口にする。


「この世界に、最初の異世界人を呼び込んだ奴がいる。それが、此処の屋敷の主人なんじゃないの?」

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