再会

「これは……あの書斎みたいだけど、規模が全然違うな」

「ああ。随分とお勉強が好きだったみてえだ」


 この図書館らしき場所には本棚が乱立しており、かなり視界が悪くなっている。

 いるが……天井が見上げるほどに高く、本棚もそんな天井まで続いているのは明らかに此処もおかしな影響を受けているという証拠なのだろう。

 チラリと本棚の本のタイトルにキコリが目を向ければ、まともなタイトルと胡乱なタイトルが混ざっている。

 エルフとの付き合い方、植物辞典、レミラ剣術基礎、■ヲΠザイΘ、一発芸百選、精霊考……。


「読めないタイトルが混ざってるな」

「人間の文字は読めねえよ」


 キコリとしては少し気にはなったが、この屋敷の現状を考えるにメモリースライムが化けている可能性は充分にある。

 よく見れば「■ヲΠザイΘ」のようなおかしなタイトルの本はそこかしこにあり、その全てがメモリースライムであれば……かなりの数がこの場所にも潜んでいるということになる。

 そう考えれば、触れないのが正解ということにはなるだろうか。


「まあ、いいか。本を探しに来たわけじゃないしな」


 言いながらキコリは図書館を歩き出す。無数の本のある中を進み……本棚の迷路の中をアイアースと歩いていく。

 幸いにもメモリースライムが襲ってくることはないが、どうにも陰鬱な雰囲気が漂っている。

 ところどころに蠟燭の明かりも設置されているが、メモリースライムが化けているのだろうなと思うと、微妙な表情になってしまうのは避けようもない。


「陰気臭ぇ場所だ。何が楽しくてこんな場所を作ってんだ?」

「何がっていうか……こういう場所の目的は知識の保存だろうな」

「保存なんかしてどうすんだよ」

 

 くだらねえ、と吐き捨てるアイアースにキコリは苦笑する。まあ、ドラゴンにはあまり無縁の感覚ではあるのかもしれない。どの程度ドラゴンが生きるのかは知らないが、アイアースも結構な長生きのようでもある。知識の保存や伝達という考えはあまりないのだろう。


「大切なことだと思うぞ。頭の中の知識は簡単に失われるからな」


 キコリ自身、失った記憶はたくさんある。無茶の代償ではあるが、もう何を失ったのかすらもよく分かっていないほどだ。もしかすると、そういったものを本にでも残しておけば何かの役に立ったのかもしれないし、そうではないかもしれない。

 しかし残さなければ何処にも伝わらないのだ。


「そんなもんかねえ……」


 アイアースには分からない感覚のようだったが、キコリは「そんなもんだ」と頷いて。


「あっ」

「お? キコリじゃない。ようやく来たわね」


 机の上に本を広げているオルフェと、疲れたように座り込んでいるドド。

 その2人に、ようやく再会したのだった。

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