不殺

 そう、今まで何処にも窓はなかった。別にあったところでこの状況では何にもならないかもしれないし……この館の謎が1つ増えた程度の扱いではあるのかもしれない。


「なあ、アイアース」

「ああ?」

「この屋敷、片っ端から壊したらどうなると思う?」


 その方があるいは早いのではないか。破壊できないわけではないのだから、そうするのも選択肢の1つなのではないか?

 キコリはそう考えるが……アイアースはしばらく黙り込み、やがて「うーん」と唸る。


「たぶんだが、やめといた方がいいなあ。やべえ予感がする」

「そうか。アイアースがそう言うならやめた方がいいんだろうな」

「お? なんだ。ただの勘だぞ?」

「勘はバカに出来ない。特にアイアースが言うならな」


 キコリの言葉にアイアースは虚を突かれたような顔になり……やがて、どうしようもなく渋い顔になる。キコリが本気でそう言っていると、アイアースは直感的に理解してしまったのだ。

 だからこそアイアースは、普段なら言わないようなことを口にする。


「これは俺様の勝手な想像だから信じる必要はねえ」

「ん? ああ」

「此処にメモリースライムがいるのは、偶然じゃねえ気がする。連中が俺たちを敵視するのもだ。なんとなくだが……連中も、あんまり殺さねえほうがいいんじゃねえか?」

「それは……難しいな」

「おう。ストレスも溜まるしな」


 キコリとアイアースは頷きあうと、同時に大きく溜息をつく。


「でもまあ……やってみるか」

「おう、そうだな」


 そうしてキコリとアイアースは立ち上がり、武器を消す。正直有り得ないくらいに無防備ではあるが、鎧はあるのでまあ許容範囲内といったところだろうか?

 適当なドアを開けると、その先の部屋の家具がメモリースライムに変化し始める。


「コアを割らなきゃ不殺ってことになるよな?」

「おい、いきなり諦めんのやめろ。俺様より堪えらんねえのかお前」


 アイアースは言いながら、部屋の先にある扉を確かめる。


「よし、あの扉を突っ切る。いくぞ」

「ああ」


 キコリとアイアースは同時に走り出し、襲って来たメモリースライムたちを跳ね飛ばしながら進む。

 べちょべちょする感覚を感じながらも走り、走り抜けて。アイアースはドアのノブに触れる。


「よし、ドア!」


 ガヂャン、と。かけられた鍵の音にアイアースは表情を変えないまま、流れるような動きでドアを蹴破る。

 そのまま廊下に出るとメモリースライムは追ってこなくなるが……念の為そのまま走りながらキコリはアイアースをじっと見る。


「壊さない方がいいって……」

「うるせえバーカ」

「でもアイアースが」

「バーカ!」

「いや、別に俺は」

「バーカ!」

「うん、俺が悪かったよ」


 そんな掛け合いをしながら進み突破していった先……辿り着いたのは、図書館のような場所だった。

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