いつかはどこかに辿り着く

 異常。確かに此処は異常だろうとキコリは思う。

 こんなもの、普通に出来上がるはずがない。


「確かに異常では、あるな」

「そういう異常じゃねえよ。そもそもで言やあ、お前らが汚染地域だのって呼んでる場所全部が異常なんだからよ」


 それは確かにその通りだとキコリも思う。

 エリアの端、何処から流れてきたのか、何処へ流れていくのかも分からない川。

 切り取られたような海。

 それら全てが、明らかに異常な光景であると言い切れる。


「おかしいのが普通な場所で、それでも異常と言い切れる。空間の捻じれやら拡張やら、そういうもんがこれでもかってほど集まってワケわかんねーことになってる場所……らしい。俺様も説明はできねーけどな」

「何が起こるか分からないってことか」

「そういうことだな。それにしたってこいつぁとんでもねえが……案外さっきの骨、色んな事情を知ってたかもな?」

「戻るか? 本を回収してシャルシャーンあたりに渡せれば」

「あー、やめとけやめとけ」


 アイアースはつまらなそうに手をパタパタと振って否定する。


「アイツがこの場所を知らないわけがねえだろうが。それで本が置いてあってこの場に説明にも出て来ねえってことは、説明する気がねえんだよ」

「それは、いや、まあ……そうなのか?」

「そぉだよ。なんだお前、会った奴皆お友達と思うタイプか? やめとけよ、あいつは友達には一番しちゃダメなタイプだぞ」


 分かってねえなあ……と呟くアイアースに流石にキコリも「他のドラゴンは皆アイアースはやめとけって言うんだよなあ」とは思うが、さっきも言ったので今度は言わずに黙っておく。


「なら、アイアースは友達でいいのか?」


 代わりにそうキコリが聞けば、アイアースは目を丸くして「あ?」と返してくる。


「お前、そりゃあ……」


 言いながら空中に視線を彷徨わせ、アイアースはケッと悪態をつく。


「くっだらねえ。オラ、さっさと行くぞ!」

「ああ。といっても聞いた感じだと総当たりしかないんだよな?」

「おう。いつかはどこかに辿り着くだろうよ」

「そりゃ心強いな……」


 そうしてキコリとアイアースは歩いていく。

 階段を昇り、降り、扉の先へ、廊下の先へ。

 何処を歩いているのかも分からない場所を進みながら、家具やら絵やらに化けたメモリースライムを倒していく。

 そうして……キコリたちは、疲れ切った表情でドアを開けた先の部屋に座り込む。

 家具も何もない部屋で、周囲には今通ってきた扉の他に3つの扉がある。


「……この家。なんで窓がないんだ……?」

「知らねえよ。そいつも異常の1つだろ。もしくはあの骨が生きてた頃にも無かったかだ」

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