新しい1つの楔
オルフェは再度「理解できない」と呟く。
「あたし、アンタと分かり合える気がしないわ」
「私はそうでもないですよ。キコリが大事って点では共通してると思うので」
「うっさい歪み女」
「それはお互い様だと思うんですけどねえ」
そんな2人の口論にキコリは自分のことでありながら全く口出しできないでいたが、何とか口出ししようと必死で頭の中で考えをまとめていた。
「オルフェ、俺はアリアさんに感謝してるよ。実際、俺に凄く合ってる戦い方だしな」
そうキコリが言えば、オルフェはアホを見る顔でキコリを見つめ……そのまま眼前までふよふよと飛んでくる。
「な、なんだよ」
「ばーか」
「な、なんでだよ」
「合ってるから問題なんでしょうが。バーサーカー始めてから何回死にかけたか言ってみなさいよ」
「え……えーと……たくさん?」
「アンタが無事に生きてるのは誰のおかげ?」
「オルフェのおかげだな。感謝してる」
「よろしい。じゃあ、ちょっと黙ってなさい」
キコリの口に指を当てて黙ってろ、とジェスチャーするとオルフェはアリアに向き直る。
「ま、本人も納得してるしソレについてはもういいわ。あたしとコイツが組んでるのも、そのスタンスに起因してるとこもあるし」
「そこまでは予想してませんでしたけどね。妖精は基本出会ったら殺し合いだと思ってましたし」
実際間違ってないな……とキコリは思うのだが、わざわざ言いはしない。
キコリが色々と無茶をやった結果「不完全なドラゴンクラウン」がキコリの中に生まれたのだから、そういう意味ではオルフェとの出会いもアリアのおかげと言える。勿論、オルフェに黙れと言われたばかりなので言わないのだが。
「……それと、ドラゴンのキコリを受け入れてくれたのは感謝してるわ」
「私にとっては、どっちも同じですから」
「そう言える人間がどのくらいいるのかしらね」
「さあ? 言うだけなら結構いそうな気もしますが」
皮肉げに笑いあうアリアとオルフェだが……意外に性格が合うんじゃないかとキコリは思いつつも言わない。怒られそうな気もしたからだ。
「アリアさん、俺からもありがとうございます。正直、受け入れてもらえるかは賭けだったので」
「それはちょっと悲しいですねえ。信じて貰えてるつもりだったんですが」
「うっ……それはなんというか、ごめんなさい」
キコリが本当に申し訳なさそうな表情になると、アリアはカラカラと笑う。
「いえいえ、いいんですよ。そう簡単に言える話じゃないし、言うべきでもない話です。たとえ防衛伯閣下が相手でも、です」
「……ですよね」
「ええ。ドラゴンの存在が大きいのはキコリも分かってると思います。利用されたくないなら、言うべきではないです」
まあ、其処は予想通りだろう。だから、キコリは軽く頷いて。
もう1つの話題に移行する。
「アリアさん。俺、これから他のドラゴンに会う旅に出ます。だから……しばらく、戻ってこれないかもしれません」
「そうですか。それは……そうですね、必要なことですね。キコリが、自分を何処に置くか決める為には」
そう呟くと、アリアはキコリを手招きして。近づいて来たキコリを、ギュッと抱きしめる。
「その旅には、私はついていけません。私の力を大きく超えた相手です……たぶん、ここぞという時でキコリの足枷になるでしょう」
「そんなことは」
「これでも私、キコリに多少は好かれてる自覚があるんです。それに万が一キコリが私を庇って死んだら、そいつを殺すか殺されるかになります。それは望む結末じゃありません」
だから、とアリアは言う。
「私は此処に居て、腕を磨き直そうと思います。キコリの『次の冒険』に同行できるように」
「次の、冒険」
「ええ、そうです。バーサーカーは大抵死にますけど、生きる為に死ぬんです。だからキコリもそうしてください。私は、此処で待ってますから」
アリアは、そう言って綺麗な笑顔で笑って。
キコリは、新しい1つの楔を得た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます