不在のシャルシャーン
翌日。キコリは大分スッキリした様子で市場での買い物を進めていた。
アリアに話す事も出来たし、その結果は想像以上のものだった。
だからこそ、後は旅立つだけだ。どれだけかかるかも分からない旅だから、色々と考えて準備しなければならないが……やはり、視線が凄い。
「アイツって、あの冒険者だろ?」
「世界樹の葉を持って帰ってきたってやつか?」
「でも運だろ? 実力ならもっと枚数をだな」
何やら色々と勝手に言っているせいでオルフェが不機嫌になっているが、それを全部無視してキコリは買い物を続けて。やがて荷物袋がいっぱいになった辺りで、市場を後にする。
そのまま歩いて……キコリは周囲に人が居なくなった辺りで、ピタリと止まる。
「……一応聞くけど、用件は?」
振り返った先。そこに居たのは、以前会ったアサトという男だった。
だが、その表情からはあの不遜なものが消え、真剣さが増している。
一体何があったのかは分からないが、かなりの変わりようだ。
「お前が、あのヴォルカニオンとかいうドラゴンと唯一交渉できると聞いた」
「交渉なんて出来ない。多少話を聞いてもらえるだけだ」
「俺には出来ない。それが出来るってだけで凄ぇ、と思う」
「あー……アンタもしかして、会いに行ったの? 馬鹿じゃないの」
オルフェが本物の馬鹿を見る目でアサトを見れば、アサトはクッと呟き視線を逸らす。
「最悪戦いになっても、ある程度はやれる自信があった。でも無理だった」
「生き残っただけでも豪運でしょ。身の程を知って生きればぁ?」
「オルフェ、もうちょっとなんていうか」
「いや、その通りだ」
アサトはアッサリと肯定し、キコリを見る。
「だから、頼みてぇことがある」
「ヴォルカニオンに頼みなら聞いてもらえないと思うんだが」
「いや、俺が頼みたいのはアイツにじゃないんだ」
なら何を頼みたいというのか。キコリが首を傾げれば、アサトは「不在のシャルシャーン」と口にする。
「そう呼ばれるドラゴンがいると聞いた。俺は、そいつに会いたいんだ。あのドラゴンが居場所を知ってるかを聞きたいんだ」
「あー……『不在のシャルシャーン』は会おうと思っても会えない、とは聞いたことがある。でも、なんでだ?」
キコリの問いにアサトは僅かに逡巡して……しかし「会いたい理由がある」と呟く。
「俺には、帰りたい場所がある……その鍵をたぶん、シャルシャーンが持ってるはずなんだ」
「シャルシャーンが?」
「そうだ。これは俺が調べた限りでの情報からの推測だが、シャルシャーンは空間を移動する力を持っている。その力が、俺には必要なんだ」
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