俺は関わらないからな

 なるほど、話は分かった。しかしキコリにしてみればもう1つ分からないことがある。


「で、なんでそのカリスマ人間が魔王を名乗る? 人間の敵になって何があるってんだ?」

「色恋沙汰さ」

「……ん?」

「突然異世界に落とされたカリスマ男くん。普通ならそのままモンスター相手にどうにかなるところを、そのカリスマでモンスターを仲間にしちゃいました」

「……」

「そしたらあら不思議。カリスマに影響されたモンスターたちはカリスマ男に気に入られる姿に進化していきました」

「ああ、話が見えてきたぞ」


 トロールハイプリエステスのサレナ。そう名乗っていた女のことをキコリは思い出す。

 確かアレもトロールから人間っぽい姿に進化した個体だったはずだ。

 つまり、それと同じことが起こっている……そう言うことなのだろう。


「そうしてモンスターの中でハーレムしていると、男もその気になってこのままモンスター中心の社会を築こうと考えましたとさ。結果として男もそれに相応しい姿へと……」

「ちょっと待った」

「何?」

「人間が進化したっていうのか?」

「うん。君だって此処がどうして『汚染地域』なんて呼ばれてるのか忘れたわけじゃないだろ」


 ああ、そうかとキコリは今更ながらに思い出す。汚染地域は人間が住むには適さない環境だ。

 だからこそ人類は防衛都市と壁砦などという超長距離に及ぶ防衛建築を行わなければならなかったのだ。

 そうするのが無難だったから。いや、そうするしか出来なかったから。人間のやったことが、人間とモンスターの境界線を作り出したのだ。

 しかし、だからこそ。こうも思う。


「……人間からモンスターへ、か」

「本人がそれで幸せならハッピーエンドだ。そこで終わればね」

「魔王軍、か。町じゃダメだったのか?」

「人間を脅威だと思ってるんだよ。そしてそれは至極当然の考えだ。汚染地域のことを知ればね」

 

 まあ、それについてはキコリも「そうだろうな」としか言えない。言えないが……。


「……元を正せばゼルベクトのせいだろ全部」

「まあね。そこから派生したものをゼルベクトが悪いとは言わないけども」


 ニッコリ笑顔を浮かべるシャルシャーンに、キコリはゆっくりと口を開く。


「俺は関わらないからな」

「そうかい?」

「そうだよ」

「そっかあ……」


 残念そうに言いながら、シャルシャーンはふわりと浮かぶ。


「まあ、それならそれで別にいいんだ。君がどう行動するにせよ、ボクは必要な情報を伝えた。それを分かってくれればね」

「ちょっと待て、シャルシャーン」

「なんだい?」

「この件……本当にどうにかする気はないんだな?」

「ないよ。いよいよとなれば手を出さざるを得ないけどね」


 そう言い残して消えたシャルシャーンのいた場所を見つめ……キコリは、大きな……本当に大きなため息をついた。

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