俺はアンタが大嫌いだ
なんとも面倒な話をしていった。キコリは心の底からそう思う。
結局のところ魔王軍とやらは異世界からやってきてモンスターへと進化した人間が、人間相手に戦争を起こそうとしている。そういう話ということではないか。
放っておくのは簡単だ。しかし放っておけば、確実に人間とモンスターの関係が最悪になる。
モンスターを狩る仕事をしていた元人間の冒険者であったキコリからしてみればすでにかなり悪いとも言えるが、ここから更に悪くなるのだってあり得る話だ。
「人間とモンスターの戦争……そんな話になれば、間違いなく巻き込まれる」
そう、魔王軍とか名乗って人間の領域に攻め込むということは防衛都市……全人類の防衛ラインの最前線に突っ込むということで、つまるところ「全人類の問題」に発展する。
そうなれば冒険者がどうのこうのと、そんな長期的な話ではなくなる。間違いなく人間の軍が出張ってくる話になる。そう、本当に戦争になるし、魔王とやらはその戦争をやらかす気なのだ。
「……冗談じゃないぞ。人間はドラゴンだってモンスターの一種くらいしか認識がないんだ。万が一今まで出会った誰かを襲ってみろ。恐ろしいことになる」
ヴォルカニオンは、遠慮なく人類軍を焼くだろう。
ユグトレイルは……どうだろうか。敵対した者をただで帰すとも思えない。
ドンドリウスは、寝ているから平気として、シャルシャーンもそうと分かって姿を現しはしないだろう。
アイアースは……まあ、惨劇の光景が見えるようだ。
グラウザードについては、正直良く分からない。
しかしまあ、総合的に高確率で酷いことになるのは間違いないだろう。
そうなればもう、取り返しがつかない。人間の中で「魔王軍」という存在は実際以上に巨大な存在となっていく。その先は……汚染地域を作る原因になったような「英雄」が出てこないとも限らない。
考え、考えて……キコリは誰もいない空間を睨みつける。
「どうせ其処にもいるんだろう? だから言っておくぞ、シャルシャーン」
そう、どうせ聞いているはずなのだ。『不在のシャルシャーン』は何処にでもいて何処にもいない。だから、此処にもシャルシャーンは「居る」のだ。
「俺はアンタが大嫌いだ。アイアースがお前を虫より嫌ってる気持ちもなんとなく分かる」
勿論、返答はない。シャルシャーンが出てくる様子もない。ないが……構わない。伝わっているのは知っているのだから。
「ドンドリウスの件だって、アンタにも原因があるんだ。恩もあるにはあるが……差し引いても嫌いって感情が勝つからな。次出てくる時は、そこをちゃんと考慮しておけよ」
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