キコリの倫理観
魔王軍をどうにかしなければならない。それはもはや確定事項だ。
話し合いでどうにか出来るのであればそれが一番良い。
けれど、話し合いでどうにも出来ないのであれば戦わなければならない。
愛だとか恋とだとか、そういうものが原因なのであれば平和の意味も分かるものと信じたいが……そう楽観的になれるほど、キコリのこれまでは平穏ではない。
それが分かっているのだろう、帰宅したキコリの話にオルフェとドドはなんとも微妙な表情になる。
「まあ、話は分かったぜ。つまりその魔王軍とか名乗ってるアホをサクッと潰しに行く、と」
「いや、まずは話し合いをだな」
なんとも過激なことを笑顔で言うアイアースにキコリは思わずツッコミを入れるが、それにアイアースはハハハと笑う。
「なぁに言ってんだ。自分を王と名乗って軍とか組織するバカに話し合いが通用するわけねーだろ」
「いや、だからそれは多少暴走気味ではあるけどそれなりの理由があるわけだろ」
「自分を騙すんじゃねえよ、キコリ」
そこでアイアースは笑顔を引っ込めて、極めて真面目な表情になる。
「理性的であろうとするのはいい。大事だし俺様には出来ねえ。相手を理解しようとするのもいい。やっぱり俺様には出来ねえ。平和に物事を進めようとするのもいい。俺様はまず吹き飛ばす」
此処からが大事だ、と。アイアースはそう前置きする。
「でも、自分だけは騙すな。お前、なんで魔王軍に関わろうと決めた? シャルシャーンの野郎に旨く誘導されたってのもまあ、あるだろうよ。でもな、違うだろ? 俺様と同じ結論に至ったはずだ。そいつが一番の理由だろうよ。なあ?」
言われて、キコリは複雑な表情を浮かべる。それはあまり、認めたくないことではある。
自分自身が結局「そういうもの」だと言っているかのようで、結果的にそうなるとしても努力をしたかったのかもしれない。けれど……そう、けれども。
「……そうだな。話し合いは無駄に終わると思う。そして潰し合いになるだろう」
「無理なのか」
「ああ。向こうはもう戦争すると決めてるんだ。言葉が届くようなら、もう止まってるはずだ」
ドドにそう答えながら、キコリは「それでも」と続ける。
「話し合いは、する。たとえ通じないと分かっていても、言葉を交わさないのは違うと思うから」
「ま、そうするのが一番でしょうね。あたしとしては、アイアースにいきなり大海嘯をブチこんでもらって、そこからドラゴンブレス連発で完全殲滅してもらうのが一番とは思うけども」
「クハハッ、いいねえ! そういうの好きだぜ!」
「やめてくれよ……」
それが一番早そうだとキコリとしても考えてしまうのだが、それを選んではいけない。
キコリの倫理観が、それを選ぶことを否定していた。
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