何の意味がある
とはいえ、勝手に魔王軍と戦端を開くわけにもいかないし交渉だって同じだ。
キコリはミレイヌ町長の屋敷へと出向くが……用向きを伝えた執事アウルは爆笑し、執務室でその話を聞いたミレイヌは頭を抱えていた。
「不在のシャルシャーンからの情報……? 魔王は異世界の人間でハーレムで人間との戦争……?」
「ハハハハハハハッ! なんと愉快な!」
「アウル! 何が面白い!」
「面白いに決まってるでしょう! その『従属』とかいう能力、恐らく私たちも抗うのは難しいでしょうからね! 近づかれたが最後フレインの街は魔王軍の仲間入りというわけです! そうなればもはや戦争へ一直線……こんなやり方で何もかも無になるだなんて。誰が予想できます!? ハハハ、ハハハ! 笑うしかない!」
アウルの言う通り過ぎて、ミレイヌは拳でガンと机を叩く。そう、その通りなのだ。
デモンを始めとするあらゆる事態に備えるために造ったフレインの街は、魔王本人がやってくるだけで全て魔王のものになってしまう。
シャルシャーンが『従属』などと呼んだのは、恐らくその通りの能力だからだろう。
疑問に思うことすらなく、魔王に心酔し従うようなものであるに違いない。
魔王の言うことに従い、魔王の望むように動く。戦争をしろと言われれば戦争をするに違いない。
「なんて恐ろしい……! そんなものが何故現れる!? まるで私たちがこうするのを見越したかのような……!」
「だから、俺たちは魔王軍に交渉しに行こうと思う」
「……交渉? どんな?」
「人間との戦争をやめるように」
「ハッ」
ミレイヌはキコリの言葉を鼻で笑う。馬鹿馬鹿しい。そう言おうとしているのが表情から、全身からキコリに伝わってくる。
「馬鹿馬鹿しい」
そしてミレイヌはその心情をそのまま言葉にしてキコリにぶつける。それが良くないことと分かってはいても、言ってしまいたかったのだ。
「仮にそれで『分かりました』と返答があったとしよう。今後は互いに友好関係であろうと建設的な提案があったとしよう。理想的だ、実に素晴らしい」
そう、素晴らしい展開だ。魔王軍という戦力も得て、フレインの街のさらに明るい未来が開けるかのようだ。
「魔王がフレインの街に来た時点で、全てが魔王の意見に染まる。『仲良くやっていく』は『魔王の意思の下で仲良くやっていく』に塗り替わる。再び魔王が戦争を宣言しても、私たちはそれを喜ぶことになるだろうな」
「それ、は……」
「そんな相手と交渉することに何の意味がある。分かっているのかドラゴン。貴方1人が取り込まれただけで、このフレインの街は制圧されかねないのだぞ」
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