アレも根本からドラゴンだな

「分かっているさ」

「分かっているならばどうして交渉するなどと」


 そう、キコリにだってそんなことは分かっている。

 どれだけ言葉を重ねたところで、魔王は全ての約束を能力1つでひっくり返せる相手だ。

 聖人ぶりながら邪悪な企みを動かすことが出来るのだ、上っ面の言葉で景気の良い約束をするなど簡単な話だ。

 単純な話、頭を下げた相手を「従属」させてその頭を次の瞬間に踏みつけることが出来る。

 そこまで邪悪な相手だとは流石にキコリも言わないが、それが出来るというのはとても大事なことだ。


「たとえ相手の言葉に何の意味もなくても。対話を試みたという事実は重要だろう?」

「何故?」

「理性ある者だという証明だからだ」


 たとえキコリが破壊神ゼルベクトの転生体であったとしても、今のキコリは元人間でドラゴンだ。

 気に入らないものを無秩序に破壊して回る者などでは、断じてない。

 だからこそキコリは、まずは対話を試みるべきだと。そう考えていたのだ。


「……まあ、理解はできる。誰しも自分を気に入らないもの全てを問答無用で叩き潰すようなモノだと思いたくはない。しかし、それが相応のリスクを伴うことも当然分かるな?」

「ああ。今回の交渉には誰も連れていけない。いや、アイアースは大丈夫かもだが」


 魔王の能力がどんなものであるにせよ、それは魔力によって発動している。

 だから「従属」がどれほど強力であろうがドラゴンがその無限の魔力によって自分をガードしている限りは絶対にその能力は通らない。

 問題は、時間が長時間に及べば及ぶほどキコリの無茶の度合いが高まるということだが……まあキコリにとっては、然程の問題でもない。すっかり慣れた……いつも通りの話だ。


「とにかく、何をどうするにせよ俺とアイアース以外に適任はいないはずだ」

「……その通りだ。だから苦悩している。唯一対抗できるからこそ、絶対に失敗してほしくない……可能なら遠距離から薙ぎ払ってほしいんだ」


 その気持ちは分かる。そしてキコリも、そう出来る。グングニルを投げるかドラゴンブレスをぶち込んでやればいいのだから。アイアースを連れて行くのなら大海嘯の一発でも済む。


「そうだな。これは俺のワガママだ。でもそれでも、俺は問答無用の破壊者ではありたくない」

「……お前は馬鹿だ。その拘りで全てが壊れるかもしれないんだぞ」

「そうはさせない。この町は俺の住む場所だからな、絶対に守る」


 そう、このフレインの街を守りたいからこそキコリは魔王軍に会いに行くのだ。

 だから……此処が壊れることだけは、絶対に許容しない。

 そんなキコリを見て、ミレイヌは大きなため息をつく。


「分かった。どの道頼るしかない……この街の命運は託した」

「すまない。でも、託されたからにはやり遂げる。待っててくれ」


 立ち上がり出ていったキコリを見送り、ミレイヌは再度の溜息をつく。


「ドラゴン、か。話しやすいように見えて、アレも根本からドラゴンだな……エゴに関わる部分では絶対に譲らない」

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