「怪物」としての才能

 ミレイヌも伊達に長生きはしていない。ドラゴンの根底にあるのがエゴ……理屈ではない、譲れないものであることは知っている。

 この世界に何体かいるドラゴンの中でも、ミレイヌの知る限りでは「創土のドンドリウス」は比較的交渉しやすいドラゴンのはずだった。

 しかし、蓋を開けてみればああいう結果になった。ミレイヌが送り出したモンスターたちは全員死に、ドンドリウスはキコリと戦闘を繰り広げた。

 それがドンドリウスのエゴをミレイヌが読み切れなかったせいでもあるが、ドラゴンという生物が御せるような相手ではないことの証明であった。

 キコリ、そして海嘯のアイアース。今フレインの街にはこの2人のドラゴンが存在している。

 比較的話が通じると思われたドンドリウスが全く話にならず、逆に全く話にならないと思われたアイアースが今のところ無害。

 まあ、だからといって交渉しようという気は起こらないのだが……そのアイアースも、一番交渉しやすいキコリと仲が良い。

 その一番交渉しやすいキコリがああなのだから、アイアースと交渉などしたらミレイヌは殺されるかもしれない。

 かの伝説にうたわれる「不在のシャルシャーン」ならば、こちらの窮状を分かってくれるかもしれない……などとミレイヌは思っていたが、キコリから話を聞く感じではシャルシャーンも相当な曲者だし、こちらの窮状などとっくに理解した上で放置している。


「……結局モンスターの味方は、あのキコリしかいない」

「おや」


 キコリを玄関まで送っていた執事アウルは、それを聞きつけて楽しそうな顔をする。


「モンスターの味方ですか? あのドラゴンが?」

「違うとでも?」

「違いますとも。アレは『自分の味方』の守護者です。たぶん一本気とか素直とか、そういう点では『海嘯のアイアース』の方が大分マシですよ?」

「すまない。どう違うか分からない。結局味方なんだろ?」


 疑問符を浮かべるミレイヌに、執事アウルは馬鹿にしたように肩を竦めてみせる。


「どうしようもなく歪んでいますよ、あのキコリというドラゴンは。貴方がアレの中にどんなエゴを見たか知りませんが、もっとずっと根深い。愛に飢え、愛を欲し、愛に応える。度を超えた献身をして、裏切りには相応の結末をもって応える……一言で言えばお伽噺の怪物です。どんな環境からあんなものが生まれたのか……気にはなりますが、関わりたくはないですねえ」


 そう、他人を乗っ取る「悪魔」である執事アウルだからこそ理解できる。

 キコリはドラゴンの中では恐らく最弱だ。出来るかはさておいて乗っ取る対象としては選ばないほどに各種の才能がない。

 ないが……唯一あるのが「怪物」としての才能だ。


「アレの敵は不幸だ。敵対したことで、残酷な結末のお伽噺の主人公にされてしまうのですから」

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