いい街だよ、此処は

 そんな話をされているとも知らず、キコリはフレインの街中を歩く。

 この時間はゴーストたちは大体寝ていて、普通のモンスターたちが活動している時間だ。

 ……まあスケルトンたちは朝でも昼でも歩いているが、彼等は例外だ。

 今も、丁度向こう側からスケルトンが一体歩いてくる。これが人間の街なら悲鳴と怒号で大騒ぎだが、フレインの街では慣れた光景だ。

 何しろ朝早い時間だと朝日に照らされながらスケルトンが広場に集まって体操をしているくらいだ。

 骨なのに運動が何に効くのか全く意味が分からない。

 以前耐えきれずにキコリが聞いたら「誰かが聞いてくれるのを待っていたが誰も聞いてくれないうちに用意してたオチを忘れて習慣になっていた」という斜め上の答えが返ってきたが、今となっては身体を滑らかに動かす訓練をすることが進化に繋がると分かったのでやっているらしい。さておいて。


「やあ、ドリー」

「おお、キコリ! 今日も気持ちの良い日和だね!」

「いい加減慣れたと思ったけど、まだギャグか本気か判断しかねるな……」

「そもそもアンデッドって人間のお伽噺みたいに生前がどうのとかとは何の関係もないんだから、夜が好きなのは単純に涼しくて動きやすいって話だと思うんだけれども」

「まあ、そうだよな……」


 スケルトン含みほとんどのアンデッドは自然発生するものであって、既存の死体とは何の関係もない。

 逆に死体を動かすタイプのアンデッドはモンスター界隈からしてみれば乗っ取り型やゴーレムの類であり、しかし人間からしてみればそんなものはどうでもいいという話になるのだろう。

 ……と、そこまで考えてキコリはハッとする。


「いや待て。涼しいとか関係あるのか? この前温度とか感じないって」

「ツッコミ遅いなあ。そんなんじゃスケルトンギャグは極められないぞ」

「俺スケルトンじゃないからなあ……」

 

 そんなどうでもいいことを話していると、3人のゴブリンが2人の横を走っていく。


「薬草の採取だ!」

「たくさん獲るぞ!」

「違うぞ、ちょっと残すんだ!」


 いつも吊るされている3人組だが、ああして真面目に働いてもいる。ちなみにオルフェは理性で押さえつけて燃やさないらしい。


「今日も平和だねえ」

「……そうだな」

「この街が出来るまでは、こうしてモンスター同士で一緒に生活するなんて考えもつかなかったもんだけどな」


 実際にはそうではない。この平和はすぐにでも壊れそうで、モンスター同士の生活は「魔王の下での」という形に塗り替えられようとしている。そしてそうなれば、戦争に向けて一直線だ。

 それは……やはり、許せることではなくて。


「いい街だよ、此処は」


 ただ、そう言うに留めていた。

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