視線がすっごい刺さるのよ

「別の世界……」


 それはキコリにとってもオルフェにとっても、特に新しい情報ではない。

 キコリ自身、以前は別の世界の記憶を持っていたからだ。


「そうした魂を持つ者がいれば警戒せよ。奴等はその知識故に、世界を容易く崩す。可能ならば……最優先で乗っ取り意志を封じよ」


 自分の知識はどうだっただろうか、とキコリは思う。

 その記憶故に馴染めず孤立したが、世界を崩せるほどのものは持っていなかったはずだ。

 だが、悪魔王の言っていることはキコリにはなんとなく理解も出来ていた。

 しかし……大神はその考えを良しとしているようにも見えなかった。

 異世界の知識も上手く使えば世界に発展をもたらし、下手に使えば世界を壊す。

 それだけの話であると考えれば、悪魔王の考えは過激に過ぎる。


「……では、最後に。このオーブは都市機能の維持に必要な術式を詰め込んである。上手く使え。それでは、さらばだ」


 その言葉を最後に悪魔王の姿は水晶の中から消え、ぼんやりとした輝きだけが残される。

 無音になった部屋の中でオルフェが「言いたいことだけ言ったって感じね」と呟く。

 まあ、確かにその通りだろう。何も知らない者がこれを聞けば、異世界の記憶を持っている者は世界の敵だと考えかねない。


「まあ、これでこの……オーブを使えるようになったんだろ?」

「たぶんね。とはいえ、使い方の説明なんか一切なかったけど」

「……確かにな」

「とにかく、ちょっとコレ弄ってみるから。アンタはその辺で待ってなさい」


 キコリの返事を待たず、オルフェはオーブに魔力を流し色々と試し始めている。

 その結果だろうか、オーブは明滅しながら中に映すものを変えていく。

 見ていてもキコリにはオルフェが魔力を流している、以上のことは分からない。

 分からないがオルフェに任せておけば大丈夫だろうという安心感もあり、手近な椅子を引いて座る。

 座り心地など微塵も考慮されていない金属製の椅子はあまり良いものではないが、キコリはキコリで鎧を着たまま座っているのでお互い様だろうか?


(……凄いよな、オルフェは)


 オルフェとはそれなりの付き合いだが、もうオルフェがすぐ近くに居ない自分というものはキコリには想像が出来ない程度には馴染んでいた。

 そして、オルフェも恐らくそう思ってくれているだろうとキコリは確信できていた。

 何とも心地の良い関係。そんな言葉がピッタリなような気がして、キコリは作業をしているオルフェをじっと見る。


「ちょっと。待てとは言ったけどあたしを凝視しろとは言ってないわよ」

「……そんなに見てたか?」

「視線がすっごい刺さるのよ」


 ごめん、とキコリは謝って視線を逸らすが……その後も、オルフェはキコリからの視線を感じて。

 やがて諦めたような表情でオーブを弄っていく。

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