一番重要なのは

 オーブ。悪魔王はそう言っていたが、そう自称するに相応しいものだとオルフェは思う。

 このオーブがこれだけ巨大なのは見栄っ張りでも何でもなく、これだけの大きさが必要だったのだと理解できる。

 オルフェがこうして調べているだけでも、10、100、1000……いや、もっともっと桁数が上の、とんでもない数の術式が緻密に組み上げられているのだ。

 恐らくは此処にいた悪魔の……妖精に匹敵する魔法能力を持った種族の技術の粋が此処に在るのだ。


(悪魔……か。凄いわね。でも、真似はあんまりしたくないわ)


 魔法や術式といったものには性格が出る。そして悪魔の術式から見えてくるのは、非常に傲慢で計算高い、そんな性格だ。

 それを前提に先程の悪魔王の言葉を考えれば、恐らくだが……悪魔は「異世界の知識を持つ者」を利用しようとして失敗したのだろう。そうしていよいよ、といった段階になってそれを後悔したのだろう。


(馬鹿の極みね。ま、あたしたち妖精も人のことはあんまし言えないけど)


 妖精は妖精で、面白いものや気に入ったものにしか興味を示さない。

 まあ、オルフェの見た限り人類も相当だが……そういう意味では馬鹿ばっかりなのかもしれない、などと思ってしまう。


「お、見つけた」


 ようやく見つけた術式を起動すると……出てきたのは、立体的な模型のような映像だ。

 それはよく見れば、この地下都市、というよりは地下階層の地図であることが分かる。


「キコリ、見つけ……って」

「地図だな。なんか凄いな」


 すでに近くまで来ているキコリに驚きつつも、オルフェは軽く咳払いをする。


「そうよ。今は此処、最下層ね」


 オルフェが指を動かせばその部分が拡大し、詳細な内容が分かるようになる。

 ただ……書かれている文字は一切読めない。恐らくは悪魔独自の文字なのだろう。


「言葉は共通語だったのに、文字は違うんだな」

「そうね。まあ、悪魔は相手を乗っ取る連中だから言葉はそうやって覚えたのかもしれないわね」


 あるいは、そのプライドの高さゆえに悪魔以外に読めない文字を独自に持っていたのか。

 まあ、こっちの可能性が高そうだと思いながらもオルフェは言わない。


「今見るべきは此処よ」


 オルフェが指を移動させるとオーブの地図も移動し、端の方にある大きめの建物を表示する。

 それだけなら特に何も気にすることではないが……問題は、そこに木のイラストのようなものが描かれていることだ。


「植物園、か……いや、畑か?」

「可能性はあるわ。此処の性質を考えるに、最低限の機能は動かしていただろうし……」

「そうか。なら確認しなきゃな」

「待ちなさいバカ」


 早速動き出そうとするキコリを、オルフェは押し留める。


「一番重要なのは此処からの脱出でしょうが。端に行けば転移できるんだから、そこまでのルート……今から一緒に調べるわよ」

「げっ」


 地図で見ると分かる広大な迷路を解くと言われ、キコリは思わず声をあげてしまうが……重要だと分かっているだけに、オルフェと顔を突き合わせあれこれと話し合っていく。

 それはかなりの時間のかかる作業ではあったが、同時にかなり楽しいものでもあったのだ。

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