『別の世界』の記憶
机を漁っても、壁を探っても何もない。
これだけ何かありそうな風なのに、本気で何もないのだ。
壁に何かが貼られていたような形跡1つ見つかりはしない。
この部屋にある怪しげなものは、部屋の中央の巨大な水晶玉だけ……だ。
「……どうする?」
「どうするも何も。何が起こるか分からない以上、今何かするわけにはいかないでしょ」
「だよなあ……」
コレの取り扱いは後でドドを加えて確認するとして、この建物の探索は此処で打ち切るべき。
そう考えたキコリとオルフェは頷きあって。しかしその瞬間、水晶玉の中にノイズが走り始める。
「ちょ、キコリ! まさかアンタ!」
「何もしてない!」
「てことはまさかこいつ、自分で勝手に……!?」
オルフェの言葉を受けて斧を構えるキコリだが、水晶玉から聞こえてくる声に手を止める。
「これが起動したということは、想定していた最悪の事態が起こったのだろう。そこに居るのは悪魔だろうか、それとも別の何かだろうか」
「俺は」
「答える必要はない。これは我の声を残しただけのものに過ぎない」
声を残す魔法。そういったものもあるのだと思いながらキコリは口を閉じる。
悪魔に対しても呼びかけているということは、恐らく危険なものではないだろう、と判断したのだ。
そして……ノイズの中から、1人の男の姿が現れる。貴族然とした服装に身を包む、金の髪に赤い目の男の姿。その燃えるように輝く瞳が、ひどく印象的だ。
「我は悪魔を束ねるもの。悪魔王レーゲイン。此処はいざという時に我が民が逃げ込めるように作った場所だ。しかし、これが起動している現在、此処に我が民は居なくなったのだろう。願わくば、それが前向きな理由であれば良いのだが」
「……なんか良い人だな」
「同族相手ならの話じゃないの?」
キコリとオルフェが話している間にも、悪魔王レーゲインを名乗る男は話し続けていた。
つまるところ、此処は避難所であり都市でもあったらしい。
いつか地上に帰ることを想定している為、最低限の機能しかもたせていないのだという。
これが最低限なら地上にはどんなものがあったのかとキコリは気になるが……未だ響く振動を考えるに、地上に出たところでそれを見られるとも思えない。
「……1つ。伝えておきたいことがある。魂に関することだ」
ふと、悪魔王が口調を静かなものに変える。まるでこれからとても大事なことを話すような、そんな口調だ。
「肉体を乗っ取り魂を絡めとる我等悪魔であるからこそ気付いたことがある。とはいえ、此処に居るのが悪魔以外であれば伝えても意味があるとも思えんのだが……」
「前置き長いわねコイツ」
オルフェが毒づくが、当然水晶の中の悪魔王に届くはずもない。
「此処ではない何処か。海の先でもなく空の先でもなく、星の彼方でもなく。此処とは繋がらない場所に、どうやら『別の世界』とでも呼ぶべきものがある。そして……その『別の世界』の記憶を残した魂もまた、存在するのだ』
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