俺も生き残りたいですから
そして、数日後。
キコリは可能な限りの荷物を抱え、英雄門の前に立っていた。
冒険者ギルドからの重要依頼である為、便宜をある程度図ってもらえた形である。
ある程度……という辺りに組織運営の闇が見えるが、それはさておき。
「キコリ、無茶はしないでくださいね」
「はい、分かってます。俺も生き残りたいですから」
そう答えるキコリにアリアが複雑そうな表情になるが、キコリにはその理由が分からない。
「え、ええっと……本当に無茶はしないですから」
「そうですね」
そう言うと、アリアはキコリの頬に手を添える。
「1つだけ約束を。危険だと思ったら、すぐに帰還のスクロールを使うこと。いいですね?」
「勿論です。温存はしません」
「ならばよし」
微笑みながら、アリアはキコリから手を離す。
「いってらっしゃい、キコリ」
「はい、行ってきますアリアさん!」
手を振り、キコリは空間の歪みへ向けて歩いていく。
そう、今回の探索はポーションも支給されたし帰還のスクロール……高い物であるらしいが、それも支給されている。
保存食も大量にあるし、無茶をする必要もない。更に言えば報酬もいい。
それでいて内容は「内部を探索し、先遣隊、あるいはその痕跡を見つけ持ち帰る」である。
こんな状況だとは思っていなかったので初期の先遣隊には帰還のスクロールを彼等に持たせていなかったそうなのだが……その彼等を連れ帰ってほしいという事だ。
「俺みたいなド新人に任せる仕事でもないように思うけど、な」
生き残ったサバイバル能力を評価するとのことだったが、実際はどうだか。
死んでも特に問題がない中で選ばれたようにキコリは感じていた。
まあ、断る選択肢はないようなものだが……。
「よし、行くぞ」
森を抜け坑道を抜け、空間の歪みの前まで行くと、そこには叩き壊された看板がある。
「……調査中につき立ち入り制限、か」
これを壊したのはモンスターか冒険者か。どのみち、ロクな相手ではないだろう。
だが、キコリも今から仕事で此処を通らねばならない。
ゴクリと唾を呑み込み、空間の歪みへと飛び込めば……そこは、草原だった。
「広い……」
そう、物凄く広い草原だ。
前回は1区画あたりの広さは此処までではなかった気がするが……迷宮化で拡張されたのだろうか?
しかし、視界が開けているのは良い事だ。
先遣隊とやらがいればすぐに確認できる。そう考えて、キコリは周囲を注意深く確認しながら歩く。
勿論、すぐに不測の事態に対応できるようにマジックアクスは構えたままだ。
だが、何もない。先遣隊は勿論、敵もだ。
それでもキコリは注意深く周囲を見回して。
ヒュウッと音が鳴り、足に激痛が走る。
「ぐっ……!?」
鎧の隙間を狙い、矢が刺さっている。
馬鹿な。注意していたはずなのに。矢を抜くと激痛が走るが、刺したままにしているよりは余程いい。
続けて飛んでくる矢を斧で弾き、腰に差していたポーションを飲む。
すぐに傷が癒え、キコリは「それ」を見つける。
青々とした草をあしらったマントを纏い、短弓を構え地に伏せる……獣人とは全く違う、犬のような顔を持つ人型。
「コボルト……!」
ゴブリンの近似種であるとも、全く違う何かであるとも言われるモンスター。
獣人との違いは、その身を覆う毛が無いこと。
四方八方から飛び交う矢はキコリを防戦一方にさせ、やがて手斧を構えたコボルトが走ってくる。
「……ミョルニルッ!」
ズドン、と。倒れる前よりもずっと強い電撃が、キコリのマジックアクスを覆う。
「らあああああああああああ!」
何本かの矢が刺さるのも構わず、キコリは斧コボルトを砕き黒焦げにする。
まだいける。その感覚に従いながら、キコリは再度のミョルニルを発動させる。
狙うは、視界に入った弓コボルト。
マジックアクスが戻ってくるその前にキコリは丸盾に電撃を纏わせ、逃げようと身体を起き上がらせかけた弓コボルトの1体の顔面にブーメランのように丸盾をぶつけ、そのまま電撃が弓コボルトを黒焦げの物体へと変えた。
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