たぶんこの下に
慌てたように逃げ去っていく残りのコボルトを、キコリは追わない。
いや、追えないのだ。刺さった矢を抜き、ポーションを飲む。
すでにポーション2本。あまり良い消費速度とはいえない。
「不利になったら逃げる……か。そりゃそうだよな」
すでにその姿が見えなくなったコボルトたちだが、キコリは彼等の姿が突然消えたように見えなくなったのを視認していた。
いや、あれは消えたのではない。あれは「落下」だ。つまり、それが意味しているのは。
「穴、だな。たぶんこの下に巣穴があるんだ」
一部のウサギがそういう行動をすると本で読んだことがあるが、コボルトもそうしているということなのだろう。
確かに敵性生物と戦うよりも隠れていた方がいいこともあるだろうし、出てきて奇襲をかけたほうがいいこともあるだろう。
しかし、もしそうではなく単純にゲリラ戦を仕掛けにきているなら厄介だ。
何体隠れているかも分からないコボルトたちとそんなものをしたくはなかった。
たぶんだが、ここでコボルトの魔石を取り出すようなことをしていると襲ってくるだろうという予感もあった。
キコリは溜息をつくと、先を目指して歩きだす。
「これ以上襲ってこないといいんだがな……」
こればかりは希望的観測でしかない。
襲ってきた角兎を丸盾で弾き叩き落とすと、マジックアクスでトドメを刺す。
角兎ならば魔石を取り出していても襲ってこないだろうと膝をつくと……穴から顔を出してこちらを見ているコボルトと目が合う。
「……なるほど、角兎が主食ってか」
試しに放り投げてみると穴から更に腕が伸びてきて、角兎をキャッチして引っ込む。
仕方ない。コボルトに角兎の取り合いで襲われたくはない。
そのままキコリが歩き始めると「ギイッ」という声がする。
振り向けば先程の……たぶん先程のコボルトなのだろう。
こちらを見ているが、なんだろう。礼でも言っているのか。
そんな事を考えた直後、キコリは「横」へ跳ぶ。
瞬間、キコリの背後から飛んできた矢がそのままキコリが元居た場所に突き刺さる。
「ミョルニル」
振り向けば、そこには弓コボルト。
投げたマジックアクスは弓コボルトを砕き、瞬間穴から飛び出たコボルトが剣を構え突っ込んでくる。
ガヅン、と。顔面にもう1つのマジックアクスを叩きつけ、一撃でコボルトを仕留める。
手に戻ってきた最初のマジックアクスを握り、キコリは再度の溜息をつく。
「お礼どころか追剥ぎか……? もっと持ってるだろ的なアレか……」
モンスターとはやはり相容れない。
それを再確認しながら、キコリは草原を歩いていく。
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