予感があったから

 アリアは、キコリを無言で見ていた。

 キコリはそう言うだろうな、という予感があったからだ。

 初めて会った時から、そういうところがあった。

 無難に生きたいという割には冒険者という職業を選び、危険を避けることはあっても逃げることはしない。

 転生とかいうモノの影響なのか、それとも悪魔憑き呼ばわりされて幼少期を過ごした反動なのか。

 とにかく、自分の命を簡単に賭け金にしてしまう。

 だからこそ、掴んでいなければすぐに死の世界へ旅立ちそうな危うさがあった。

 しかもキコリ自身は、それに気付いていない。

 いや、気付けないのだろう。

 充分に安全策をとっているキコリに降りかかる、幾つかの災難。

 1つや2つくらいならば冒険者をやっていれば遭遇して当然。

 だが、こんな短期間でこれ程の事態が連続で降りかかることは早々ない。

 だからこそ麻痺するのだろう。

 アレに比べれば安全だと、そう考えてしまう。

 アリアの考え通りバーサーカーという戦闘スタイルはキコリに合致し、ちょっとやそっとでは死なないだけの、新人としては破格の実力も身に着けた。

 そうして死から遠ざかったはずのキコリに死が何度も近づいてくるのは何なのか?

 悪魔憑きなどと蔑まれたキコリに、何故あのエイルという根性無しが近づいてしまったのか?

 話を聞いた時にはよく我慢できたものだと今でも思う。正直、アリアは奴の頭をカチ割らなかった自分を褒めてやりたいくらいだった。

 今この瞬間こそクーンと話すことも必要だろうに、それもこの状況が許さなかった。


 ミョルニルを全身に纏うとかいう魔法を使ったことも聞いた。

 凄まじく乱暴で、しかし凄まじく効果的であるだろう。

 アレの本質は付与魔法だ。そういう使い方も確かに出来る。

 乱雑な構成をしている武器用の付与魔法を精緻な人体に使うという乱暴さを除けば、だが。

 しかし、出来ると分かった以上は止めてもキコリはいざという時に使うだろう。

 そして、そういう状況に追い込まれるだろうという予感もある。

 何故なのか。

 何故キコリがそんな目に合わなければならないのか。

 運命神ヴォルクラルトは昼寝でもしているというのだろうか?

 それともキコリはそうなるべきと定めたもうたのか。

 だとすれば、今すぐ天上に乗り込み斧を叩き込んでやりたい。

 しかし、それは叶うまい。


「キコリ」

「はい」

「死ぬようなことは、しないでくださいね」

「勿論です。俺は、生きて帰ります」


 澄んだ瞳でキコリはそう答える。

 きっと、キコリは約束を守るだろう。

 生きるために全力を尽くして、死ぬような目に合うのだろう。

 けれど今のアリアには、キコリを守って戦うだけの力がない。

 それが、とても……とても歯がゆくて。

 アリアはただ、キコリを抱きしめていた。

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