出来の良い人形

 開いた扉はどうやら自動では閉じないようで、キコリが扉の横の壁に触れると自動的に動き閉じていく。

 同じように扉の横の壁に触れると、また扉が開くが……キコリはなんとも微妙な気持ちになる。


「……簡単に開き過ぎじゃないか?」

「たぶんさっきの金属でしょ。あれが住民証明ってことなんじゃないの?」

「なるほど、な」


 キコリは懐に入れた金属片に軽く触れる。メタルゴーレムに味方と認識させる効果だけではなく、そういう効果もあるのならば、この階層にいる間は必須だろう。

 

「とにかく、中に入ってみよう。俺が先に確かめてみる」


 言いながらキコリが中に入れば、自動で建物の中に明かりが灯る。

 光に照らされた建物の中には……思ったよりも、何もない。

 机と椅子、そして簡素なベッドのみ。あまりにも殺風景だ。

 だが……ベッドの上に「何か」が寝ている。

 それはメタルゴーレムと同じ輝きを持つ金属の肌を持つ人型で……丁度成人男性サイズであった。

 身体の各部は省略され人形のようだが、顔だけはしっかりと存在している。

 その顔の造形もかなり美形に作られているが、少なくとも動き出すような気配はない。


「……これは……?」

「何か見つけたの?」

「ああ。人形っぽいっていうか……人形なんだろうけど」


 オルフェとドドも入って来て、その人形を見て……オルフェは「うえっ」と、ドドは「ほう」とそれぞれの反応を見せる。


「出来の良い人形だ。かなり腕のいい者が作ったのだろう」

「ていうかコレ、絶対悪魔用の人形でしょ。こんなもんに宿って動かしてたってわけね」

「そういうことか。それなら、此処がこんなに殺風景なのも納得だな」


 トイレに調理場……およそ人が人として生活するに必要なものは此処には一切ない。

 あの「生きている町」を彷彿とさせる歪さだが、此処では単純に「必要が無いから作らなかった」ということなのだろう。


「……しかしそうなると、此処の悪魔は他の生物を乗っ取らなかったってことなのか?」

「それはどうかしらね。此処は避難所だし、緊急用でしょ? 代替品だったんじゃないの?」

「だとしても、人間としての形に拘っていたようにドドは思う」


 椅子に机、ベッド。どちらも魔力生命体である悪魔には不必要なものだ。

 ましてや、こんな金属人形に宿っていれば尚更必要ない。

 それでも、形だけでも「そういうもの」を作っていたのだ。

 そのことを考え、キコリはかつてこの上にいたデーモンがどんなものだったのかと思いをはせる。


「なんかしんみりした雰囲気出してるけど。こんな場所にこんなもの置くくらい人型に拘ってたなら、絶対余裕のある時は人型の生命体乗っ取ってるわよ」

「……」


 キコリとドドは思わず顔を見合わせてしまうが、言われてみれば確かにその通りだ。

 代替品に人形を用意する程好んでいた形なら、本物も乗っ取っていただろう。


「此処に生き残りのデーモンがいなくて良かったかもな」

「ドドも同意する」


 頷きあい、キコリとドドは大きく溜息をついた。

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