自分には真似できない魔法

 部屋の中、念のためにドアも閉めてキコリたちは床に腰を下ろす。

 シーツどころか藁すら敷いていないベッドの上の人形をどかしたところで、大した寝心地も期待できないからだ。


「明日も此処を進まないといけないけど……どうしたもんかな」

「そうね。相変わらず道も分からないままだし。まあ、歩いて行けば何処かの転移門には着くでしょうけど」


 少なくともそうすれば、またシャルシャーンが来る……かもしれない。

 シャルシャーンに期待の全てをかけるのは危ういが、今のところ明確な道標があるわけでもない。

 右も左も分からない大海の中で揺蕩う小舟の如く、今の状況は不安定だ。


「問題は、この迷宮じみた場所をあと何日彷徨うことになるかよ」

「それは……そうだな、それも問題だ」


 キコリもドドも保存食を持ってはいるが、それも限界がある。

 途中で採取をしようにも、此処には草1本生えておらず獣も居ない。

 モンスターですら、金属の塊のメタルゴーレムしか居ないのだ。

 流石にキコリでも金属を食べるように「適応」しようとは思えない。


「食糧もそうだけど、水もだ。此処で手に入るのか?」

「む。水か……確かにそれは問題だ」


 通常、冒険者の持っている水袋には浄化の魔法がかかっている。

 これは汚染地域の魔力や水の汚れなどを消す効果があるわけだが……まあ、今のキコリにはそれ自体はあまり重要ではない。

 問題は水自体がないこと。キコリが適応できたとしても、オルフェとドドはそうはいかない。

 此処でどのくらい彷徨うか分からない以上、水は早急に補給しておきたかった。


「一応魔法で水は作れるけど」

「あ、それなら問題ないのか?」

「けど、そんなもんにあまり魔力消費したくはないわね。何処かで手に入るならそれが一番よ」

「そりゃあな……」


 言いながらキコリは壁に深く体を預ける。この場所ではオルフェの魔法が何より重要だ。

 だからこそ、あまり魔力面での負担はかけたくない。


「明日この町、探索してみるか。水くらいならあるかもしれない」

「そうね」

「ドドも賛成だ」


 頷きあうと、キコリは目を閉じようとして。ベッドに横たわっている人形に目を向ける。


「……やっぱアレ、気になるんだけど。壊しといたほうがいいのか?」

「寝ている時に動かないかドドは気になる」

「外出しときなさい、ぶっ壊すから」


 やはりオルフェも気になったのだろう、キコリが人形を外に放り出すと、オルフェのフェアリーケインが人形をどうやっても動けそうにないスクラップに変える。


「あー、疲れた……これでもう平気でしょ」

「流石だな、オルフェ」

「もっと感謝なさい。あたしが居なきゃどうせまた力尽くでしょ」

「ああ、ありがとう。いつも凄く助かってるよ」

「フン」


 フェアリーケイン。本当に凄い……自分には真似できない魔法だとキコリは思う。

 アレは妖精の中でも特に魔法に精通しているのであろうオルフェの現時点での極致と言える魔法だ。

 詳しい理屈などキコリには一切分からない。分からないが……アレは恐らく、ただ敵を倒すだけの魔法ではない。そんなものを即興で生み出すオルフェには、まさに尊敬の気持ちしかない。

 相棒。そう、相棒として自分は相応しいことが出来ているのか。

 そんなことを考えながら、キコリは目を閉じた。

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