何度でも、何度だって
キコリから寝息が聞こえ、ドドがイビキをかきはじめて。
そんな2人……というよりはキコリを、オルフェはじっと見ていた。
オルフェとキコリが離れていた時間がどの程度か、正確には分からない。
気が付いたら、オルフェはシャルシャーンに保護されて意識を失ったままだったからだ。
そして再会したキコリは、確実に「何か」が変わっていた。
それが何かまでは分からないが、キコリはまたドラゴンの方へと傾いた。
(悪魔に「滅びた」でも「倒された」でもなくて「殺された」、ね。完全にこっち側じゃないの)
それ自体は、別に悪いとはオルフェは思わない。元々、人間とは違うものを感じたからこそオルフェもキコリと関わろうと思ったのだから。
しかし、そうなればなるほど人間とは価値観が変わっていく。
キコリと一般的な人間の価値観に決定的な差が出るのは、然程遠い日ではないように思われた。
「仕方のないことなのかしらね。アンタ自身に、それを忌避する意思を感じられないんだもの」
言いながら、オルフェはキコリの鼻をつつく。「うう……」と声をあげるが、起きる様子はない。
元よりキコリは人間社会の中で疎外されていて、楔こそあれど人間に失望することも多かった。
そう、オルフェの見ていた限りキコリは……たった1人を除いて、あまり人間に執着していない。
何度も殺し合いをしたオークの1人であるドドを仲間として簡単に受け入れたことからも、それは透けて見えている。
そしてそうなったのは……たぶん、オルフェとその仲間たちのせいであろうことは想像に難くない。人間よりモンスターの方が人情深い、とか。そう考えていたとしてもおかしくない。
オルフェですらそう思うくらいに、獣人国での状況は酷かった。
そんな中でキコリは、会った頃からでは有り得ないくらいに強くなっていった。
そして、今も恐らくオルフェの知らない何かを手に入れている。
けれどその代わり、何を失ったのか? それが、オルフェには恐ろしくてたまらない。
「……」
オルフェは人間サイズに変化すると、壁を背にして寝ているキコリの隣に座って寝顔をじっと見つめる。
「アンタはいつもそうよね。自分を削って、別の何かで埋めていく。きっと、これから先もそう。そうしてアンタだったものはいつか、消えてなくなるんだわ」
あるいはもう、そうなのかもしれない。かつて人間だった頃の「キコリ」は削れて消えて、今此処にいるドラゴンの「キコリ」はその残滓を残すだけの別物なのかもしれない。
けれど、それでも。そうなのだとしても。
「アンタの『かたち』は、あたしが覚えてる。何度でも、何度だって引き戻してあげるわ」
寝ているキコリには聞こえていないと知りながらも、オルフェはそう宣言する。
「さ、寝よっと。きっと明日も大変よ」
そう言いながら、オルフェも眠りにつく。
だから……寝ているはずのキコリの口の端が僅かに上がっていたことには、気付かないままだった。
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