此処に居た悪魔は皆

「悪魔……」


 その言葉は、キコリにとっては縁深いものだ。

 悪魔憑きと呼ばれて村を出たのが、全ての始まりだったからだ。

 確か悪魔はゴーストと同様の、魔力で構成された生命体である……ということであったはずだ。

 元々ゴースト系のモンスターは生物に入り込むことで知られているが、悪魔はその能力が特に強く、入り込んだ生物に成り代わることもあるらしい。

 その現象を悪魔憑きと呼んだことから、人が変わったようになることを「悪魔憑き」と呼ぶ風習が広がってしまった……と神殿で教えてもらったのをキコリは思い出す。


「でもアレはゴーストの仲間みたいなものだろ? こんなもの作れるのか?」

「作れるわよ。あたしも人間の町の本は読んでみたけど、アレに書いてるのは雑魚悪魔の話だし。高位の悪魔は乗っ取りなんかしなくても普通に物理干渉するわよ」

「でもそれと此処に何の関係が?」

 

 悪魔が物理干渉できるのとこの都市に何の関係があるのか分からずキコリが首を傾げると、オルフェは魔石の柱を指差す。


「1つ目。ルートが全く不明の迷路。2つ目。物理限定のゴーレム。3つ目。飛ぶこと前提の緊急チャージの仕組み。4つ目。高いレベルのマジックアイテム製作技術。つまり、『飛べてルート無視して壁抜ければ全部解決して、物理攻撃に強くて、魔法関連に長けた奴。そういうのは悪魔しかいないって話」


 あるいは他にもいるかもしれないが、そういう種族かつ集団で、こういうものを作りそうなのは悪魔しかオルフェは思い浮かばない。


「たぶん上にあったのも悪魔の都市だったんでしょうね。あたしもあの事件の詳細までは知らなかったけど……そっか。悪魔とやりあってたのね」

「悪魔……か。此処に居ないってことは、此処に居た悪魔は皆殺されたってことか」


 キコリのその言葉にオルフェの視線が向けられる。何か言いたげな視線だったが、キコリが「な、なんだよ」と言えばオルフェは「別に。その通りだと思うわよ」と答える。


「どういう経緯でそうなったかまでは分からないけど、此処を使った……というか避難できた悪魔はいなかった。そういうことでしょうね」


 オルフェの言葉を受け、キコリは未だ振動が続く上を見上げる。

 恐らくは地上でも大地の記憶の影響による「何か」が起こっているのだろうが……それは案外、悪魔たちがデモンとなって出現しているのかもしれない。まあ、何と戦っているかまでは分からないのだが……案外、汚染地域を作った人間も蘇って戦っているのかもしれない。

 それを考え、キコリは黙り込んでしまうが……何かが開く音がして、キコリは振り返る。

 そこでは……ドドがバツが悪そうに頭を搔いていて、その隣には開いた建物の扉があった。


「ドドは謝罪する。ついうっかり触れたら開いてしまった……」

「ドド……いや、いいんだけど」

「次やったら殴るわよ」


 何事も無かったなら構わない。キコリはそう許すが、オルフェは許さずドドの頭の毛を引っ張っていた。

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