何もこんなタイミングで
ギイン、と。投げたナイフが大型ゴブリンが盾にした斧で弾かれる。
なるほど、表面積の広い斧であるからこそ出来る技だが……キコリは落ちた弓矢を拾うと、見様見真似で放つ。矢は届かずに杖ゴブリンの足元に刺さるが、杖ゴブリンは驚いたように数歩下がって、大型ゴブリンも無事を確かめるように杖ゴブリンへと振り返る。
その隙を狙うように弓を捨てると、キコリは斧と丸盾を構え立ち上がる。
信頼できる武器は、結局コレだ。まだ先程の攻撃の影響が残っている気がするが……それでも立たないわけにはいかない。
「くそっ、何もこんなタイミングで……!」
大型ゴブリンは、オークよりは小さいが……それでも充分すぎるほどに筋骨隆々だ。
恐らく力も相当なものだろう。
持っている斧も、恐らくマトモに当たればキコリが割られるだろう。キコリが今までゴブリンにやってきたように、だ。
そして何より、あの杖ゴブリンだ。冷静に考えれば、何をしてきたかは理解できる。
(たぶん、魔法……攻撃魔法だ。何をされたかはサッパリ分かんなかったが……)
あの距離から届く魔法だ。警戒しないわけにはいかない。
いかないが……警戒しながら戦えるほど大型ゴブリンがザコには見えない。
しかし……時間をかければ当然魔法を撃たれる可能性は高まってくるだろう。
ならば、やるしかない。
「いくぞおおおおおおお!」
ウォークライではない。この状況で敵を増やす可能性を作る程、キコリは愚かではない。
叫び、キコリは斧と丸盾を構えて大型ゴブリンへと突っ込む。
当然、大型ゴブリンはキコリへと向けて斧を振るう。
ゴウ、と。その体躯に相応しい速度で斧が振り下ろされて。
しかし、絶好のタイミングで振り下ろしたその場所には、キコリはいない。
そこにあるのは、思いきり地面を踏み抜いた足跡のみ。
(バックステップ、上手くいった……!)
そう、それはオークがキコリに使った技。
斧の軌道が単純になるが故に可能な、瞬間回避技。
「ガッ……!」
「させるかよ」
踏み込み、斧を踏みつける。
振り下ろされた斧を、手を足場にしてキコリは跳ぶ。
絶好のチャンスを逃すわけにはいかない。
あのオークのようにバックステップが同じ相手に2度通じると思う程、キコリは寝ぼけてはいない。
どんな技も2度目は対応される。ウォークライでさえそうなのだ。
バックステップなど、対応されて当然だ。
だからこそ、キコリは踏み込む。踏み込んで……斧を、思いきり振り下ろす。
ガヅンッと。大型ゴブリンの頭蓋を叩き割る音が、その場に響いた。
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