俺が使えるような、何か

 剣ゴブリンにトドメをさせば、残りはこん棒、短剣、槍。どれも厄介だ。

 厄介だが……どれから狙えばいいかは、ハッキリしていた。

 木の棒に刃を括り付けたかのような粗末な槍を、掴んで思いっきり引っ張る。

 ゴブリンが引っ張り返した瞬間に手を離せば、槍ゴブリンは勢い余ってひっくり返る。

 次は短剣とこん棒。迷わず斧を投げて短剣ゴブリンを割ると、こん棒ゴブリンに襲い掛かり丸盾で殴りつける。

 起き上がろうとしていた槍ゴブリンを蹴り飛ばすと、落ちていた槍を拾って突き刺す。

 そうして残るはフラフラしているこん棒ゴブリンを斧で叩き割れば、それで終了。


「ふう、ふぅー……」


 荒い息を整え、キコリは気を落ち着ける。

 体力は無限ではない。

 暴れれば暴れる程、力を籠めれば力を籠める程疲労は溜まる。

 そして疲労が溜まることは、死に直結することでもある。

 だからこそ、思う。

 

「俺は、弱い……」


 ゴブリンをこれだけの数相手にした今だからこそ、気付く。

 今もしオークに遭遇したら、キコリは確実に死ぬ。

 力もスピードも、何一つとして敵わない。

 油断してくれていればまた勝てるだろうが、そんなものは「勝てる」とは言わない。

 力やスピードを鍛えるにしても、そんな一朝一夕で身につくものではない。


「……何か、別のものが要る。俺が使えるような、何か……」


 しかし、具体的にそれが何であるかは思いつかない。

 キコリは考え……とりあえず魔石を回収しようと考えつき、回収を始める。

 ゴブリンの魔石が8個。8000イエンの稼ぎにゴブリンの武具。

 1日の稼ぎとしては及第点に近い。


「荷物も重いし、今日は帰るか」


 そう考え、キコリは英雄門へ向けて歩き出して。

 その瞬間、キコリの身体を背後から何かが貫いた。


「ギッ……!?」


 そのあまりの痛みに、キコリは戦利品の武器をばらまきながら倒れる。


「な、何、が……ぐあっ!」


 再びキコリを襲う痛み。バヂイッ、という何かが炸裂する音が響き、それが未知の何かであることをキコリに知らせてくる。


「く、うぐう……っ!」


 起き上がり振り返った先。そこには杖をこちらに向けたゴブリンと……一回り大きいゴブリンが、斧を担いでキコリを見つめる姿があった。

 そう、それは間違いなくゴブリン。しかし、他のゴブリンとは明らかに何かが違っている。

 その大型ゴブリンと杖ゴブリンは転がっているゴブリンの死骸とキコリを見て何かを囁きあうと、大型ゴブリンがキコリに向けて歩いてくる。

 こちらを殺そうという、その意思が透けて見えるようで。

 キコリは挨拶代わりにナイフを1本投げ放った。

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