それしかないんだけどさ

「な、なんだコレ……」

「実際に見るのは初めてだけど、凄いよね」

「これが空間の歪み……」


 そう、朝になるとそれは確かによく分かった。

 景色が歪んでいる。そうとしか言いようがない何かがそこにある。

 そこから先の「風景」が歪み、波打ち、まるでモザイクでもかけられたかのようになっている。

 一体何があればこんなことになるのか。


「不思議だよね。コレが汚染地域がそう呼ばれる理由……そんでもって、人類がモンスターに滅ぼされてない理由らしいよ」

「それって……」

「キコリも思ったことない? モンスターは明らかにこっちに敵意を持ってるのに、一部の例外を除けば攻め滅ぼしには来ない」


 最近までモンスター事情などキコリは考えてはこなかったが、それでも思う事はある。

 たとえば今背後にある山に住んでいるというモンスターが襲って来れば、防衛都市は墜ちるのではないか。

 そこまでいかずとも、ゴブリンより強いオークの軍団が来れば、それだけでどうなるか分からない。

 だからこそキコリも「確かに」と思うのだ。


「その理由がコレだっていうのか?」

「そう言われてるってだけだけどね」


 空間の歪み。あるいはゲートと呼ばれるモノ。

 此処から先の大地は何かの理由で引き裂かれ、無数のゲートで繋がる場所になっている……とされている。


「実際の所は不明だけどね。僕らがそう認識してるだけでモンスターには違う見え方をしてるかもしれないし」

「それについては、とりあえずいいけど……此処を通ると何処に繋がるんだ?」

「オークだよ。連中の領域に繋がるらしい」


 オーク。なるほど、これまでオークに1体しか出会っていないのは、このゲートと坑道の2つの理由があったからなのだろうとキコリは納得する。


「此処から先にはもう『冒険者の道』はない。連中の領域だからね」

「今更だろ」

「……ですね。覚悟を決めましょう」


 クーンにキコリとエイルが頷いて。そんな2人にクーンも笑う。


「まあね。それしかないんだけどさ」

「ああ。じゃあ行こう」


 キコリがゲートに触れると空間に波紋のようなものが広がっていき……そのままキコリはタックルするように突っ込む。

 マジックアクスを構えたまま、キコリは浮遊感のようなものを一瞬覚える。

 その不思議な感覚が終わった瞬間にはもう景色がかわっていて、今までとは全く違う「川の流れる豊かな平原」としか言いようのない光景が広がっている。

 キコリが立っているのはどうやら高台のようだが、眼下に広がる光景には集落らしきものも見える。


「ハ、ハハ……なるほど。文字通りオークの勢力圏ってわけだ」

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