ただ1つ言えるのは

 ランプの明かりだけを頼りに、野営をする。

 野営と言ってもランプを真ん中に置いて座っているだけで、特別なことは何もしていない。

 何故か。簡単だ、何かあった時に焚火は「此処に何か居た」ことをこれ以上ないくらいに主張するからだ。

 それをどうにか出来る程自分たちが強いとは、キコリたちは微塵も考えてはいない。

 いざという時に逃げられるようにする為、明かりはランプを。寝具はマントだけ……そういうことだった。

 見張りは交代制で、今はキコリとクーンが起きている。

 1人だと眠っても分からないが、こうすれば互いに起きているか確認できる。

 そんなクーンの提案によるものだった。


「でも、此処で襲われたら怖いな」

「ん?」

「ゴブリンならどうにか出来る。でもオークが出てきたら分からないぞ」


 オークは1回だけ戦ったことがあるが、それだけだ。

 あのオークは戦術というものをしっかり持っていて、キコリが勝てたのは騙しあいで勝ったからだ。

 勿論、ゴブリンジェネラルより強いなんてことはない。それは体感で分かる。

 分かるが……たぶん、ホブゴブリン以上ビッグゴブリン以下といったところだろう。

 そんなものが群れをなして襲ってきたら、はたして勝てるのかどうか?


「うーん……」


 クーンはそう言うと、洞窟の出口の更に先……闇の向こうへと視線を向ける。


「キコリはさ。汚染地域がどうやって出来たか、知ってる?」

「……知らない」

「僕も知らない。というか、触れちゃいけない事みたいに扱われてる」


 ランプの灯が、揺らめく。

 何か、とても危険な話をするかのようにクーンはキコリを真剣な表情で見つめる。


「有り得ないだろ。『分からない』じゃないんだ。確実に過去に何かがあって、それで此処は汚染地域なんて呼ばれてる。どのくらい広いのかも分からない、とんでもなく広い地域がだよ」

「何か軍事機密とか、そういう話なんじゃないのか?」

「だったら、それが歴史書に記されてるべきなんだよ。詳細は除くが……ってね」

「なら、なんだって言うんだ?」


 クーンが何を言いたいのか分からない。

 だからこそキコリはそう問いかけて。


「明日の朝になれば分かると思うんだけど……」

「?」

「この先の空間は目茶目茶に歪んでるらしい。そして、それを引き起こすような何かが過去にあったんだ。歴史書にも、どんな本にも記載できないような、そんな何かが」

「なんだよ、それ……」

「分からない。ただ1つ言えるのはさ」


 クーンは言った後、フッと表情を緩める。


「この場所に関しては、モンスターが来ればすぐ分かる……ってことかな」

「なんだそりゃ」

「僕も楽しみにしてるんだ。闇の中じゃほとんど見えないって話だからね」


 意味が分からない。

 そんな感想を抱くキコリだったが……翌日、「それ」を見て全員が絶句することになる。

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