ちょっとドキドキしますね

 水袋に保存食、そしてランプも購入すれば、準備は完了。

 英雄門に向かえば、衛兵が声をかけてくる。


「お、ついに遠出か」

「はい。長くても往復4日くらいですが……」


 キコリがそう答えると、衛兵はうんうんと頷く。


「気をつけろよ。複数日に渡る探索は予想以上に心を削るものだ」

「はい。気をつけます」

「ああ。前にも言ったが……良い冒険を。我々は君に期待している」


 そんな言葉に見送られ、キコリたちは奥へと進んでいく。

 冒険者の道を真っすぐ進み、ゴブリンの砦跡を進み、更に奥へ。

 そして、山越えの坑道の前に再びやってくる。


「さて、と……ランプに火を入れようか」


 クーンがそう言いながらランプに火をつけ、煌々と明かりを放ち始める。


「じゃあコレは僕が持つから、キコリは先導よろしく」

「ああ」


 本来であれば先頭のキコリが持つ方が良いのだが、キコリの戦闘スタイルを考えればクーンが持つ方が良いという結論になったのだ。

 そうして坑道に入っていくと……中は想像よりもずっと広く掘られている事が分かる。


「結構広いんだな」

「そりゃあね。広く掘らないと上手く戦えないじゃない」

「ああ、そりゃそうだ」


 こんなものを掘れば、モンスターだって此処を通ってやってくる。

 その際に満足に武器も振るえないとなれば、どうなるかは明らかだ。

 だからこそ、広めに掘られているのだ。


「まあ、でも……こんな場所でミョルニル使ったら崩れかねないな」

「それは結構真面目にヤバいと思う」


 戦力半減だよ、と言うクーンにキコリは笑う。


「馬鹿言うな、半減どころか8割減だよ」

「ほとんどじゃん!」

「そうだよ。だからさっさと抜けないとな」


 こんな場所でゴブリンジェネラルにでも会えば、簡単に皆殺しにされてしまう。

 まあ、ゴブリンジェネラルの図体では此処は狭すぎるだろうが……。


「実際、この前のゴブリンたちは此処を通ったってわけじゃないよな」

「山越えだと思うよ。モンスター同士の争いって基本的にはないからね」


 例外はあるということだが、基本的には人類に恐ろしい山越えルートもゴブリンにとっては、むしろ安全なルートであるのかもしれない。

 そして、それは同時にこの坑道ルートを使うモンスターが少ない可能性をも示しているのだが……。

 事実、坑道を抜けるまでモンスターに一切会う事はなく。

 しかし坑道を抜けて外に出た頃には、すっかり太陽が沈み夜になっていた。


「真っ暗だな……」

「今日は此処で野営かな?」

「ちょっとドキドキしますね……此処から先はゴブリンの勢力圏じゃないはずですし」

 

 エイルのそんな言葉に、キコリは緊張でゴクリと唾を呑み込んでしまう。

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