布団みたいだ
マント屋。まさかそんなものがと思ってしまうのは前世の常識が邪魔するが故だろうか?
しかし、確かにキコリはマント屋に連れて来られていた。
ジェシーマント店。そう看板に書かれたこの店には、マントしか置いていない。
「うわあ……凄いな」
「だよねー。僕もこういうとこ来るとテンション上がるなあ!」
「デザインも色々ですからね」
そう、本当に色々なのだ。
真っ赤な背中を覆うだけのようなマントもあれば、全身を覆う袖なしの合羽のようなマントもある。
その中でも、特に合羽のようなタイプのマントは多いようだ。
袖なし合羽タイプだけでも、薄手のものからモコモコのものまで何種類もある。
キコリはモコモコタイプのマントに近づき感心したような声をあげてしまう。
「布団みたいだ……」
「あー、このタイプ? 実際布団みたいに使うけど、普通の旅人用だよね」
「ですねー。こんなの着てたら動けませんし」
そんな事を言っていると、店員が近づいてくる。
「マントをお探しですか?」
「あ、はい」
「汚染地域の奥に向かうので、それなりに動きやすいヤツを新調しようかと思ってるんですよ」
クーンがスラスラと希望を伝えてくれるが、どうにも冒険者におけるマントとは簡易寝具であるらしい。
着たまま動ける毛布。つまりはそういうことだ。
「なるほど……予算はどのくらいで?」
「安物である必要はないですけど、それなりので。使い潰しちゃいますから」
エイルが「そうですよね」と頷いているが、キコリは何とも微妙な笑顔になってしまう。
安物である必要はない、などと言えるのはクーンに関してはビッグゴブリンの報酬が入っているからだし、キコリに至ってはゴブリンジェネラル討伐の報酬が入っているからでもある。
あの後、ビッグゴブリン討伐の功績も認められたのでクーンもお財布が暖かいのだ。
つくづく、金があるというのは大切なことなのだとキコリも実感してしまう。
「そうなりますと、あまり重くないのがよろしいですね」
「重いのっていうのは、どんなものがあるんですか?」
キコリは思わずそう聞いてしまうが、店員がキラリと目を光らせる。
「ご興味がおありですか? ベテランの重戦士の冒険者などが愛用している品になるのですが、鎖帷子を織り込んだマントがございまして!」
「あ、今回は普通ので……」
クーンが割り込むと店員は「残念です」とマントの選別に戻るが……確かにそんなものを着込むのは重戦士くらいだろう。
「では、こちらのマントは如何でしょう? 比較的着脱も楽ですし防水性も高いです」
言いながら店員が差し出してきたのは、比較的薄手の袖なし合羽タイプだった。
店の中でもかなり種類が多いので、やはり一番売れ筋なのだろうか?
「うーん……僕はいいと思うけど、キコリは?」
「俺はアリだと思う」
「あ、私もそれでいいです。値段も手ごろそうですし」
そして買った新品ピカピカのマントは実に良い品……なのだが。
背中にマジックアクス2本と丸盾を背負っているキコリは、武器の背負い直しをするという小さなトラブルもあったりした。
まあ、些細な問題である。
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