俺の魔法の才能は無いから

「じゃあ行くか。今までの感覚なら3階層突破も、もうすぐだ」

「でしょうね」


 武具を持っていないモンスターも増えてきたし、魔石も手に入らないとあれば数を狩る意味もあまりない。さっさと階層を突破した方が利口というものだ。

 3階層、4階層。抜群のコンビネーションで2つの階層を突破して辿り着いたのは、5階層。

 だが、此処でキコリたちの快進撃は僅かに鈍ることになる。その理由は、此処が……。


「……く、そっ」

「もう魔力ないわよ……でも、どうにか此処を突破しないと……」


 2人を囲むのは、フル装備のオークの群れ。

 見上げるような巨躯と、その身体にしっかりとあった金属の武器防具。

 そして何より、数だ。最低でも5体で行動するオークたちの連携は凄まじく、キコリとオルフェはあっという間に囲まれ追い詰められていた。


(強い……考えてみれば、万全の態勢を整えたオークと戦ったことはなかったな)


 以前クーンたちとオークの領域に紛れ込んだ時はかなり卑怯な手段や奇襲を仕掛けたし、フル装備のオークとは戦っていない。

 あの時のオークを一般人とするなら、目の前のオークはまさに兵士。ソルジャーオークといったところだろうか?

 鎖帷子まで着込んだソルジャーオークの防御を、今のキコリの力では突破することが出来ない。

 オルフェの魔法も同じだ。今のオルフェが使える魔法程度であれば、盾を構えて防いでしまう。

 そして何より、それぞれの「群れ」が他の「群れ」と共同して1つの生き物のように動く。

 それがキコリたちが追い詰められている最大の原因と言えるだろう。


「オルフェ」

「何?」

「此処を無理矢理突破する」


 宣言するキコリにオルフェは「はあ!?」と怒ったような声をあげる。それが出来たら苦労していない。なのに、どうやって突破するというのか。


「此処に来てから、俺のドラゴンの力はなくなってオルフェも人間になって魔法の知識がほぼ消された」

「それが何よ」

「でも、俺は魔法の知識はあるんだ。あっても使えないし俺の魔法の才能は無いから、強みと判断されなかったんだろうな」


 キコリが何を言いたいか分からず、オルフェは疑問符を浮かべる。しかし、キコリはそれには答えず手を掲げる。


「俺が人間の頃使わなかった魔法。使いこなせるかは別にして……使えるんだ。こういう時にピッタリのものが」


 そう、それは「生きている町」に使った魔法。使い勝手が悪いのであまり使ってはいないが、こんな追い詰められた状況では最大限に力を発揮する、そんな全てを穿つ一撃。


「グングニル……!」


 キコリの魔力のほとんどを削り取って……それでもいつもと比べればかなりショボい光の槍を前方のソルジャーオークの群れへと放り投げて。爆発音と共にソルジャーオークたちが吹っ飛ぶ中を、キコリはオルフェの手を引き走り抜けていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る