たぶん、自分よりもずっと優しくて

 どうやらオークたちは直撃を受けた1体以外は死んではいない。

 ゴブリンなら死んでいただろうが、そこはオークのタフさの賜物というものだろうか?

 ほぼ直感的に持っていた斧を投げ捨て、地面に刺さっていたオークの斧をキコリは駆け抜けながら引き抜く。

 ズシリと重いオークの斧はゴブリンのマジックアクスよりも大分振るうのも苦労しそうではあるが、キコリは躊躇しなかった。

 そうして走り抜けると、オークは追ってこない。先程のグングニルを警戒したのだろうか?

 息切れでフラフラしているオルフェを御姫様抱っこすると、キコリは近くの地面に軽く寝かせる。

 キコリ自身、大分体力を消耗してしまっているのを自覚している。だからこそ、オルフェの近くに腰を下ろして一息をつく。


「つ、つかれ……人間って、凄い、不便……」

「そうだよなあ、オルフェはいつもは飛んでるもんなあ」


 しかも様々な補正能力つきだ。走って疲れるなど、そんな経験があるはずもない。

 もう喋る元気もないらしいオルフェをそのままに、キコリは周囲を見回す。

 今のところ、モンスターの姿はない。可能な限り此処で休むのが正解だろう。

 しかし……キコリは、じっと拾ってきた斧を見る。

 オークの体格で使用することを前提にした斧は巨大で、キコリからすれば両刃の両手斧、いわゆるツーハンドアクス並みの大きさがある。

 捨ててきた斧はマジックアクスではあるが、この階に来てからはゴーストに会っていない。マジックアクスであることにこだわるよりも破壊力を重視した方がいいのは確かであった。

 装飾の類などは一切ないが頑丈そうな両刃斧だ。木製の柄も今まで持っていた斧よりも大分馴染む。問題は、重いことくらいだろうか?

 そしてこういうモノが手に入るということは、このくらいは必要な敵が最後に待っているのだろうと、そんなことをキコリは考える。此処はユグトレイルの作った場所だ。そのくらいの計算がされていてもおかしくはない。


「……真っ赤。燃えてるみたい」


 オルフェの言葉に、キコリは上を見上げて「そうだな」と呟く。紅葉した木々は、まるで燃えるように真っ赤だ。

 それは、まるであの時の……妖精の村を焼いた炎のようで。不安げに伸ばされた手を、キコリは握る。違う、アレはあの時の炎とは違う。舞い散る赤い葉が火の粉のように見えても、全く違うものだ。


(本当なら、綺麗だとかって思うんだろうけどな……)


 だがキコリとオルフェに限っては、そうは思えない。

 赤く染まる森は、あの日を想起させるものでしかない。

 まあ、あの日のことがキコリとオルフェの絆を深める要因になったとも言えるが……。

 やがて、キコリは自分の手を強く握り返してくる力に気付く。

 隣を見れば、オルフェの瞳には強い意思の光が戻っている。


「ガラにもなく弱気になっちゃったわ。これも人間の身体故かしらね?」

「そうかもな」


 キコリはそう曖昧に答えるが、知っている。オルフェは情が深い少女だと。

 たぶん、自分よりもずっと優しくて、気が利いて……人間らしくて。

 まあ、それを言うと怒られるだろうから、絶対に言わないのだけれども。

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