その魔法の弱点は知ってる

 そうして辿り着いたのは、5階層の最奥……と思われる場所。

 少なくとも奥に螺旋階段があるので、間違いないと思われる。

 だが……そこに立ち塞がるのは、想像したようなモンスターではなかった。


「そうくるかぁ……いや、そういうのもアリなんだろうけどさ」

「趣味悪っ……」


 キコリとオルフェがそう呟く程度には、戦いにくい相手。

 

「よりにもよって『俺』が相手とか……」


 そう、そこに居たのはキコリ。それもフル装備の『ドラゴンのキコリ』だ。

 単純な自分の上位互換を相手に戦うなど、あまりやりたくはない話だ。

 それでも幸いなのは偽キコリがキコリたちに敵意に満ちた視線を向けてはいても、襲ってはこないことだろうか。

 それと、偽オルフェも居ない。これもまた有利に働くだろう。まあ、偽オルフェまで居ればいよいよ詰む状況ではあったが……どうやらそうではないらしい。

 とはいえオルフェとキコリのパーティーではキコリが主戦力であるのは変わらず、そういう意味では脅威度はあまり変わりはしない。


「焦るんじゃないわよ。こっちが先手を取れるなら、最適な一撃を喰らわせてやらないと」

「ああ、分かってる」


 今のキコリに使える手段はミョルニル、グングニル、そしてブレイク。

 乱発は出来ない。特にグングニルを使ってしまえば回復する余裕など何処にもないだろう。

 それでいて直撃しなければオークを殺し切れない程の威力……となれば、あの偽キコリを倒せるかは相当怪しい。

 ならば残る手はミョルニルとブレイクだが、こちらは今のキコリでも3回程度であれば放てる。

 この2つの組み合わせでどうにか勝つのが最適……というよりも、唯一の勝ち目であるのは間違いない。


「オルフェ。どう攻めるか決まった。サポートお願いできるか?」

「好きに攻めなさい。合わせてあげる」


 助かる、とキコリは答えて。グッと姿勢を低くする。足に力を籠めて走り出す為の、その準備。

 いくぞ、とキコリが叫んだのを合図にオルフェの放つファイアアローが3本、それぞれ別方向から偽キコリへと襲い掛かる。それを偽キコリが斧で切り払ったその直後、キコリは最初のカードを切る。

「ミョルニル!」


 斧に電撃を纏わせ、投げる。効けばそれが一番いい。だが、しかし。


「ミョルニル」


 偽キコリの両の手の斧に電撃が宿り、連続で投擲される。

 1本はキコリの投げた斧を打ち砕き、更に電撃で粉々にする。

 もう1本はキコリへと向かって、しかしキコリの投擲したナイフがその一撃を受け止める。


「何度も使ってるんだ。その魔法の弱点は知ってる!」


 命中すれば強化された投擲が襲い、更に電撃が相手を蹂躙する複合強化魔法ミョルニル。

 しかし、その弱点は「命中した相手を蹂躙する」こと。

 故に、こんなくだらない手に妨害される。魔法の、魔法故の弱点。

 それを突いて、キコリは偽キコリへと接近する。

 放つのは彼我の実力差を覆す可能性のある、もう1枚のカード。


「ブレイクッ!」


 偽キコリのその鎧の胸部へと手の平を触れさせて。キコリは、ブレイクを発動させた。

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