遥かなる伝説の時代4

 そしてそれは、通常であればすぐに元の魂が追い出されてしまうような、そんなものであったはずだが……ミレイヌは類まれなるその才能によって、耐えた。

 耐えたが……無意識のうちに身体の主導権を握ろうとする魂は強かった。

 ミレイヌは当然知らないことだが、規格に合わないままやってきた「製錬不全」どころか「未製錬」の魂は通常の輪廻の流れでは有り得ないほどに強力な力を付与されることがある。

 それは魂そのものが世界に適応しようとする為に起こる現象だとも言われているが、つまるところそうした魂は現地の魂よりも往々にして強力だ。

 だからこそミレイヌは疲弊し、当然ながら世界の状況に関わることなど出来はしなかった。

 この真実を伝えることすら出来なかった。見知らぬ哀れな異世界の魂が自分とコンタクトを取ろうとしているようだったが、異世界の文字などミレイヌに読めるはずもない。

 ミレイヌに出来ることは、たった2つのことだ。すなわち、知己のモンスターに頼み、こうした方面に詳しいモンスター……ゴーストと悪魔にコンタクトをとること。

 かくして、やってきた名もなきゴーストと1人の悪魔にミレイヌは全てをぶちまけた。

 その悪魔は、こうミレイヌに言う。


「信じられないことだが、確かにお前の中に魂が2つ……それも妙に強い魂が1つある。お前の言うゴブリンも確かに気になってはいたが……いや、今はいい。その魂、このレーゲインが絡めとってやろう」


 しかし、と悪魔レーゲインは言う。多少言いにくそうに、しかし言わねばならないことなのだと。


「かなり危険だ。お前の魂同様に肉体と正しく接続されているが故、有体に言えばお前も死ぬ。その弱り切った魂では耐えきれまい」

「……構わん。そうであるならばゴーストよ。お前にその残りカスをやろう。悪魔が異世界の魂をどうにかした瞬間、私を乗っ取るといい。どうせすぐに死ぬが、私の記憶と力がお前のものになろう」


 それはゴーストにとっては願ってもない話だ。何者でもないゴーストは他の生命体を憑り付き殺すことで明確な「形」を手に入れる。ハッキリ言って、お得に過ぎる取引である。そうこの時点ではゴーストは考えていた。


「ハ、ハハハ。私の愚かしさがこの事態を招いた。恐らく、もっと酷いことになる。モンスターに転生者が現れたのだ。ならば次はきっと人間にも現れる。しかし、しかしだ。この恐ろしさはきっと伝わるまい。レーゲインよ、新たなミレイヌよ! どうか、世界を頼む……」


 遺言にも似たソレは、ミレイヌの魂の限界の近さをも示していた。

 だからこそレーゲインは即座に「異世界の魂」を絡めとり、自分にどうにか出来る類ではないと即座に判断し砕き割る。魂はどうせ神々の下へと帰る。この異常な魂については、神々がどうとでも処理して正しい形に戻すだろう。そして……。


「……ソレは、死んだか」

「ああ」


 ミレイヌの形を持ったゴーストと、椅子に座ったまま死した「ミレイヌ」がそこにいた。


「おぞましい。そして恐ろしい。レーゲイン。私はこの女の口車に乗ったことを今更ながら後悔している」

「そんなにか?」

「知ってしまっては、対策をせざるを得ない。このままでは私たちモンスターは死に絶えるぞ、レーゲイン。今暴れているというゴブリン野郎は問題外だが、私たちもまた団結する必要がある」


 そうして、悪魔レーゲインは悪魔の国を作り悪魔王を名乗り……やがて現れた転生者の人間、そしてドラゴンである『不在のシャルシャーン』をも巻き込んだ大激戦の果てに国ごと滅びた。

 それが「汚染地域」を生んだ争いの真実であり、始まりであり……そして、結末だった。

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