遥かなる伝説の時代

 それは、今より遥かな過去。汚染地域などというものが無かった、そんな遥か昔。

 人間とモンスターの関係は今と然程変わらず、しかし「防衛都市」などというものも無かった頃のこと。そう、遥かなる伝説の時代。

 ミレイヌがその名前を得る前、ただのゴーストとして生まれる前の話。これは「ミレイヌ」の名を持つ一人の人間の話だ。

 ミレイヌは人間の中では非常に賢く「賢者」とすら呼ばれていたが、その賢さ故に人間から離れモンスターの多く住む領域に屋敷を構え暮らしていた。

 何故か? その理由は簡単で、ミレイヌは全てを知りたかったのだ。

 人間の中に自分の知識に敵う者はなく、自分の知識を頼る者しかいない。

 しかし、それでは限られた人生の中で世界の全てを知るには時間が足りなさすぎる。

 だからこそ、邪魔をする者が来にくいモンスターの勢力圏に住み始めたのだ。

 魔法で作った屋敷全体に、更に無数の魔法をかけ、衛兵としてリビングアーマーをゴーレムとして作り出すことで暮らすには問題ない程度の安全を保つことにも成功した。

 逆に言えばモンスターの襲撃も撃退していたのだが……時折、知性の高いモンスターがやってくることもあった。最初は会話すら覚束なかったが、ミレイヌが相手の言語を理解し話すこともあれば人間側の共通語をモンスターが覚えることもあった。

 そんなモンスターたちはミレイヌに悩みを持ち込むようにもなり、その対価として野菜やら肉、魚やらを受け取るようにもなった。

 そうしているうちに、ミレイヌは1つの疑問を感じるようになった。


「こんなに分かり合うことは簡単だというのに。何故人間とモンスターは争うままなのだ……?」


 その疑問は解けはしなかった。モンスターたちは「人間は嫌いだ」と答える者が多く、人間に聞けば「モンスターが襲ってくるからだ」と答えた。

 この回答だけ合わせれば、モンスター側に問題があるように思える。しかしモンスターはこうも言うのだ。「ミレイヌは別だ」と。

 つまりモンスターの中では人間とミレイヌは別扱い。その理由は……彼等に対する態度に他ならない気もした。しかし、そんなことを人間社会で唱えれば何を言われるか分かったものではない。

 だからミレイヌは諦めた。元より人間は人間同士でも争っているのだ。モンスターと分かり合えるはずなどない。


「それが世界の摂理ということ、か。あるいはそう神が創られたのかもしれんな」


 ミレイヌは、そう結論した。しようとした。それで、良かったはずなのだ。

 世界と神々。その在り方についてミレイヌが知的好奇心を抱かなければ。

 抱いたとして、それを探究できるだけの頭脳がミレイヌになければ。

 あるいは……そのミレイヌの知識欲を目敏く嗅ぎ付けたソレがいなければ。

 けれど、その全てが揃ってしまった。だからこそ……ソレは、ミレイヌに遥か彼方より忍び寄ることが出来てしまった。

 そして、ミレイヌとソレは出会った。夢の中、現実と非現実が入り混じる、その場所で。


「初めまして、ミレイヌ。知りたいなら教えてあげよう。君が知りたいこと、全てをだ」

「夢……? いや、しかし……誰だお前は。夢に入り込む魔法など聞いたこともない」

「僕かい? 僕は……そうだな。ゼル……そう、ゼルベクト。そう呼んでくれればいい」

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