安物だけどないよりマシかしらね
森の中を歩いていた3体のゴブリンは、人の後姿を見た。
無防備に歩く、人間の女。それも1人だ。武器らしい武器も持っていない。
こんなねらい目の敵はそういない。
ゴブリンたちは頷きあうと、それぞれの武器を構え近づいていく。
それぞれの武器は斧、剣、こん棒。最初にこん棒ゴブリンがこん棒を振りかぶり、飛び掛かろうとして。
「ギッ……!?」
草むらに潜んでいたキコリが腰だめにして突き出した剣に、深々と貫かれる。
肺の中の空気を全て吐き出すようにゴファッと血反吐と空気を吐くゴブリンを刺した剣ごと蹴り飛ばし、キコリはこん棒を奪う。
「ギイッ!」
「ギギイイイ!」
剣ゴブリンと斧ゴブリンが怒りの表情を見せてキコリに襲い掛かり、しかし剣ゴブリンが顔面にこん棒を投げつけられて倒れ転がっていく。
自分の仲間が無様に転がっていく姿を思わず見てしまった斧ゴブリンがハッと振り返った時には、キコリはもう目の前にいる。
ズン、と突き刺されたのはキコリが腰に差していたもう1本の剣。震える手から斧が奪われたと気付いた時にはもう、その斧はゴブリンに向かって振り上げられていた。
斧ゴブリンにトドメを刺し、剣ゴブリンにもトドメを刺して。戦利品の斧をキコリは数度振るう。
一番最初に持っていた斧に近いものだが、それだけに大分手に馴染む。
「どう、使えそう?」
「ああ、いい感じだ。前に使ってたのに似てる」
腰に剣を差し、手に斧を持つ。防具が手に入ればいいのだが、どうせゴブリンサイズでは合わないだろうから期待は出来ない。何度か戦ったが、実際良い防具などありはしなかった。
オルフェ用の杖も探してはいるのだが、ゴブリンメイジが見当たらないのでどうしようもない。
こうして何度も誘き出して叩き殺すしか手はない。
「俺に前の力の半分でもあれば、こんな作戦しなくて済むんだけどな」
「そういうのはもうヤメって言ったでしょ?」
オルフェに怒られて、キコリは「そうだったな」と笑う。オルフェによる囮作戦は今のところ上手くいっているが、危険は充分にある。それでもオルフェが提案し「やる」と言い張った上に作戦がこうも順調では、キコリとしては止める理由がない。
その後も何度かの囮作戦を続け……数本のナイフに木製の丸盾、大分安物ではあるが念願の杖をゴブリンメイジから奪うことに成功していた。
杖を抱えて「ま、安物だけどないよりマシかしらね」などと言っているオルフェを見ながら、キコリはクスリと笑う。まあ、確かに「ないよりマシ」程度なのだろうが、それでも喜んでいるオルフェを見れば「手に入って良かった」と素直に思えたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます