やっぱ軽いな
2階へ繋がる螺旋階段の前に、巨大で毒々しい花が生えている。
いや、それはただの花ではない。マンイーターと呼ばれる種類のモンスターであり、近づく生命体であれば人間でもゴブリンでも食べてしまう悪食だ。
茎……というよりは、もはや幹にしか見えないソレには、ウネウネと動く触手が生えている。
不用意に近づけば触手の餌食になることは間違いないだろうし、あの触手は防御用でもあるのだろう。何かを投擲したところで意味があるとも思えない。
「……ファイアショット」
だが、放たれる火弾が防御しようとした触手の一本を焼き払う。
続けて何度も放たれる火弾はマンイーターの触手を焼き続け……ついには奥の手であろう地面を割って現れた根にまで火をつける。
そのまま、ほぼ何の抵抗も出来ず焼き払われたマンイーターの残骸が炭になった辺りで疲れ切った顔のオルフェと、そんなオルフェに肩を貸しているキコリが草むらから姿を現す。
「あんな作戦でいけるもんだな」
「だぁから言ったでしょうが。マンイーターはその場からは絶対に動かないのよ」
魔法の連続使用……それも本来の魔力量と比べればゴミのような魔力で何度も魔法を放ったせいか、オルフェの疲労は並ではないが、それでもキコリを突っ込ませるよりは大分マシな結果だとオルフェは自負している。
そんなキコリとオルフェの装備は、最初よりは少しマシ程度だが……ユグトレイルにそうなるよう調整されているのだろう、とオルフェは考えている。
なんともふざけた話だが、まあとんでもないマジックアイテムで固めた相手が出るよりはマシだろうか。
「とりあえず2階に行かなきゃだが……辛いだろ。運ぼうか?」
「ん? んん-……」
オルフェは少し考えた後「ん」と頷く。まあ、このまま階段を登るのは少しばかりキツいのは事実であったからだ。
その返事を聞くや否や、キコリはオルフェを抱きかかえて歩き始める。もう準備は出来ていたと言わんばかりの、手早い行動だ。
「やっぱ軽いな」
「そりゃアンタよりゃ軽いでしょうよ」
キコリの腕に抱えられながらオルフェが悪態をつけばキコリは「そりゃそうだ」と笑う。そうして抱えられながら……オルフェはそうやって誰かに抱えて運ばれるのは初めてだな、と。そんなことを思う。
まあ、妖精だから当たり前ではあるのだろうが……悪い気分ではないな、とも思ってしまうのだ。
それが今この身体が人間だから思考がそっち寄りに引っ張られているせいなのかまでは分からない。
しかし、少なくとも今まで感じたものではなくて。それでも、本当に不愉快ではない。むしろ……。
「しかし、変な光景だよな。支柱があるわけでもないのに階段だけがある」
考えが纏まる前に、そんなキコリのどうでもいい言葉が耳に入り込み、オルフェの思考は中断してしまう。何かが分かりそうだったのに全部吹っ飛んでしまって、オルフェは思わずキコリにムスッとした顔を向けながら「アンタって……」と呟いてしまう。
「な、なんだよ」
「べっつにー。このバカ」
えー、と納得いってなさそうなキコリに身体を預けながら、オルフェは溜息をつく。
これがキコリだと分かってはいるが……いや、それがキコリらしさなのだろうか?
そうオルフェは結論付けて、あと僅かの休息を楽しんでいた。
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