少しだけ深く知れたような
2階、3階。現れるモンスターを撃破していけば、キコリとオルフェの装備も揃っていく。
人間サイズの操り人形のようなモンスター「パペット」やオーク……そういったモンスターを倒し装備を奪っていけば、その中にはマジックアイテムも当然のように混ざり始めていたからだ。
今もキコリはマジックソードでパペットを両断し、落ちた斧を見分しながらふうとため息をついていた。
「……また普通の斧か」
「そうね。一切魔力は感じないわ」
3階からゴーストも出るようになり、逆にゴブリンは出なくなった。
何をやっても殺せるゴブリンと比べれば魔力の籠った攻撃でないと倒せないゴーストは脅威であり、キコリは慣れ親しんだ斧を捨て魔力の籠った剣を使わざるを得なくなっていたのだ。
「どうも剣は慣れないんだよなあ」
「人間って剣を使いたがるもんなんじゃないの?」
「たぶん? まあ、剣術は道場も結構あるらしいし」
俺は分かんないけど、と言うキコリもオルフェは「ふーん」と返す。元々そんなに興味のある話題ではなかったのだ。まあ、「これを機に使ってみれば?」と聞いてみれば「あんまりなあ……」と気のない返事が返ってくるので、これ以上発展性のない話題でもあるが。
「やっぱり俺は斧って感じがするよ」
武器を振りかざし襲ってくるパペットを両断しながら、キコリはそうオルフェに言う。事実、キコリの戦い方は斧を前提にしたものだ。ところん相手の懐に入り込み、木を切るが如く両断する戦法。ミョルニルやグングニルを除けば、キコリのほぼ全ての戦法は超接近戦を前提としている。だからこそ、間合いが多少とはいえ伸びる剣に然程興味を持てないのかもしれなかった。
そしてそれは、オルフェとしても結構同意できる部分ではあった。
「ま、アンタはそうかもしれないわね」
そう言えばキコリは嬉しそうに笑うが、何処が喜ぶポイントだったのかはオルフェにはよく分からない。まあ、自分に同意してくれたのが嬉しいとか、そんな単純な理由だろうとは思っているのだが。
そんな会話をしている間にもオルフェの火球がパペットを炎上させ、キコリが首をはねる。
そうしてその手から転がり落ちた粗末な斧を拾い上げて、キコリは「あ」と声をあげる。
木製の柄に魔石の嵌った、どう見ても戦闘用には見えない大振りの斧。
「マジックアクス……ね」
「ああ。ようやくだ」
キコリが今使っている剣よりは見た目的にも余程ランクの低そうな斧なのだが、それでもキコリは嬉しそうだ。余程斧が気に入ってるんだな……とオルフェは思うが、同時に斧はキコリが「自分」を投影している拠り所のようなものなのではないか、というふとした思い付きがよぎる。
だから斧以外に違和感を感じるのではないか、と。そう思ったのだ。
まあ、それで何か不利益が生じるわけでもないが……キコリという人物を少しだけ深く知れたような、そんな感覚をオルフェは抱いていた。
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