馬鹿みたいだ

 そんなアイアースの心配を余所に、キコリたちは城へ向かって歩いていく。

 帝都というだけあってかなり大きな都市ではあるが、それだけに廃墟となった今は寂しげな感じが強くなっている。

 以前いた町よりも激しい戦闘があったのか、破損の度合いが大きいのだ。

 まあ、破損の度合いがどうであろうと廃墟は廃墟なのだが。

 住居らしき場所も店らしき場所もあちこちに破損が見られ、看板が落ちている建物もある。

 キコリたちが最初にいた町はかなり保存状態が良かったのだろうと思われるような状況だ。


「こんな場所を縄張りとか言ってもな……直す予定があったのか?」


 どう見ても全部壊して建て直すしかないように見えるが、その辺りに関してはキコリの世界の常識で語っても仕方のない部分かもしれない。

 魔石のことにせよその他諸々のことにせよ……ここは「異世界」なのだ。元の世界の常識で語るのは愚かだろう。

 もしかすると、そういう建築用の魔法や技術が存在するかもしれないのだ。


「さあな。だがまあ、どっちにしろ俺様たちには関係ないこった。此処が復興しようとしまいと、俺様達はどこまでも部外者に過ぎねえからな。それともなんだ? 復興を手伝うか?」

「いや、そのつもりはないさ。此処の人間に愛着はない」

「だろうな」


 それを強く感じるよ、とはアイアースは言わない。キコリは敵味方の区別による扱いの差が激しい。この世界に来てからの人間との諸々を思えば、キコリの中での扱いは最低ランクでもアイアースは驚かない。

 だから……こちらを見ている複数の視線に気付き、アイアースは小さく舌打ちをする。


「おい、出てこい。殺される前にな」


 大人しく身を隠して息をひそめていればよいものを、一体何を考えてぶしつけな視線を送ってきているのか。それを問いただしてやろうと思ったのだが……出てきたのは、武装した5人の男たちだった。

 どいつもこいつも脅えたような表情をしているが、先程の戦いで自分たちのボスが死んだことにでも気付いたのだろうか?


「わ、私たちは敵ではありません」

「そうです! ようやくあの暴君が倒されて解放されたんです!」


 そんなことを口々に叫ぶ彼等に、キコリとアイアースは顔を見合わせる。

 やはりあの転生者が倒されたことに気付いたようだが……力で制していたということなのだろうか。

 まあ、それも可能ではあるのだろう。あるのだろうが……それにしても此処に何をしに来ていたのだろうか? 1人目と違い、あの2人目の転生者は最初から此処に居たようだが……。


「これで奴を新しい帝王などと仰がなくて済みます!」

「あの男、帝国の遺産がどうとか言ってずっと俺たちを……!」


 そこまで言われて、キコリはようやく理解した。

 前回の男、そして今回の男。あの男が追ってきたのも、恐らくは同じ理由なのだろう。


「王様になりたかった、ってわけか……馬鹿みたいだ」

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