力でどうにかする段階なんてのは

 つまるところ遺産とは、何か王権を象徴するようなもの……たとえば王冠などではないだろうか?

 あるいはもっとマジックアイテム的な何かかもしれないが、要はそれが見つからず最初の転生者はキコリたちを追いかけてきて、2人目は「余所者」であるキコリたちを殺そうとしたのだろう。

 縄張りがどうのという発言はそうしたものを譲らないぞという威嚇であったのかもしれない。

 まあ、そんなものが残されているかは不明だが、ああしていたということは見つかっていないのだろう。


「そうか。話は分かった。じゃあ、帰っていいぞ。そいつは死んだんだし」

「え、あ。は、はい」

「ですが、その。救世主さまを是非皆にも……」

「いや、そういうのは要らない」


 キコリがバッサリ切り捨てれば、男たちは顔を見合わせ、頭を下げて急ぎ足で何処かへ去っていく。

 まるでこれ以上関わりたくないとでも言うかのようなその態度は、救世主だなんだと持ち上げていた者たちとは思えなかったが……まあ、口先だけなのだろうとキコリは思う。


(どのくらいかは分からないけど服従を強いられてきたんだ。お世辞の類は言いなれてるだろうしな)


 とりあえず強い者に媚びてみる。そうすることが生きる術であったなら、ああなるのも無理はない。

 更に言えばキコリたちも似たようなもの……あるいは、もっと得体のしれないものに見えていた可能性もある。

 何しろ、自分たちを虐げていたものをアッサリ倒したのだ。同類の縄張り争いと思われても仕方がないだろう。それに何よりも別に感謝してほしいなどとは、キコリは欠片も思ってはいない。

 そういったものは、この世界の人間には期待していないし感謝されても困るというのが本音ではあった。

 だから、キコリは彼等を黙って見送って、その姿が完全に見えなくなった辺りでルヴへと声をかける。


「ルヴ」

「はい、なんでしょう主」

「帝国の遺産だかなんだか知らないけど、そういう感じのものに心当たりは?」

「さて。そういったものがあるとすると……アレでしょうかね。人間が三大石とか呼んでいた……」

「ああ、あるんだな」

「壊れましたけどね。というか壊しましたが。まだ前の主が健在の頃の話です。此処にあったものも含め壊れていると思いますよ?」


 それを聞いて、キコリはなんとも言えない気持ちになる。

 つまり、あの2人はすでに無いものを探していた……ということなのだろうか?

 それでは見つかるはずもない。もう無いのだから。なんとも馬鹿馬鹿しい話だ。


「……凄いな。最初から最後まで空回りじゃないか、アイツ等」

「そんなもんだろ。力でどうにかする段階なんてのはとっくに終わってるってのに、それしか出来てねえんだからな」


 今は導き育てる段階だ。それが出来なければ人間はこの世界の主役には戻れない。

 けれど、一番力を持っている連中が押さえつけることしか能がないというのであれば、もうどうにもなりはしない。

 キコリがすでに2人排除したが……まあ、残り1人も似たようなものなんだろうなと。

 キコリもアイアースも、それに関しては全く考えが同じだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る