本当にこれで正解だったのか

「どうでしょう?」

「……何か懸念があるなら言ってくれ、ルヴ」


 思わせぶりなことを言うルヴにキコリはそう問いかけるが、ルヴは「まだ人間臭いんですよね」とあまりにも不安な答えを返してくる。

 人間。今のところこの世界で会ったのは恩を仇で返してきた奴か危ない転生者くらいなので、人間という単語そのものがネガティブに聞こえてしまう。

 まさか危ない転生者がまたこの町にいるとは思いたくないが……ルヴが人間臭いというのであれば、それは妖精の嗅覚同様に信じられるものだとキコリは判断していた。


「分かった。警戒して進もう」

「ええ、私も警戒させていただきます」

「アイアースもそれでいいか?」

「ん? いいんじゃねえか? 別に反対なんざしやしねえよ。なんだどうした突然」

「どうっていうか……何か考えてるように見えたからさ」


 言われてアイアースは「ほー」と感心したような声をあげる。よくもまあ生きてるだけで精いっぱいみたいなメンタルのキコリがその辺に気が回るものだ……と思ったのだが、流石にそれは口には出さない。実際、考えていることがあったのは確かなのだ。


「別に気にするこっちゃねえよ。俺様の問題だからな」

「そうか。何かあるなら言ってくれよ」


 言いながら歩き出すキコリの後をアイアースはついていくが……アイアースが考えていたのは確かにアイアース自身の問題でもあるが……キコリの話であった。


(さっきの戦い……レルヴァどもをかなり上手く使ってた。それだけじゃねえ、魔力も共有していた)


 それはつまり、キコリとレルヴァたちの境目が消えている……具体的には、キコリの一部としてレルヴァたちが定着しているということであった。

 そして、その理由も明らかだ。ドラゴンとしての「適応」能力が、キコリと繋がっているレルヴァたちをキコリの一部として適応させているのだ。

 もはや支配下がどうのこうのという問題ではない。キコリとレルヴァたちはキコリを「上」とした1つの生き物になりつつあり、それはキコリがかつて同じ仕組みを持っていたであろう破壊神ゼルベクトと同じ仕組みを備えつつあるということでもあった。

 そうなった場合、キコリは一体「何」になるのか? ドラゴンか、それとも破壊神か。

 どちらであってもキコリはキコリだと断定してやるのは簡単だが、事はそう単純ではない。


(くそっ、これしか方法がないとはいえ……いや、本当にこれで正解だったのか? 分からねえ……俺様の頭の悪さが憎いな)


 元の世界に帰ったとして、キコリが新たなゼルベクトとして世界の敵になりましたというのでは意味がない。

 そうならないことを……今は、祈るしかなかった。

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