やる度に『ごめん』って気分になる

 ニュアンスの違い、とはキコリは思わなかった。

 見つけた、と倒した、では意味が全く異なるからだ。

 クーンも一瞬後に「あっ」という顔になり、冒険者ギルド職員は怪訝な顔になる。


「倒した……?」

「はい。俺とクーンで倒しました」

「死体を見つけたのではなく?」

「倒しました」

「おいおい、この子等が倒したら何が不満なんだ」


 衛兵が見かねたのか割って入るが、冒険者ギルド職員は渋い表情をしてしまう。


「不満ではありませんが……見たところロクに外傷もありませんし、たまたま死んでたのを拾ってきたとしか」

「武器が通じないんで魔法で倒しました」

「いやしかし魔法にしたって、それなりの痕跡というものがありますよ」

「俺だって派手に倒せるなら倒したかったです。でも俺の魔力じゃそこまでいかなかったんです」


 冒険者ギルドの職員はキコリとクーンをジロジロと見ると「ふーむ……」と唸る。


「分かりました。ギルドでこの異常進化体については精査し、その後報酬について算定しお支払いします。それでよろしいですか?」

「俺はそれで大丈夫です。クーンは?」

「僕も大丈夫です」

「分かりました。そちらの猫獣人の子はクーン……でしたね。君は?」

「キコリです」


 2人の名前を冒険者ギルドの職員はサラサラと何かに記入すると、頷く。


「ではキコリさん、クーンさん。本日は冒険者ギルドに多大な貢献をありがとうございます。この死体は冒険者ギルドで責任をもって運搬しようと思いますが……それで構いませんか?」

「はい」

「ありがとうございます。では……」


 職員の男が合図をすると、他の職員がソリを押し始める。


「ああ、あのソリですが……」

「別に使わないので処分して大丈夫です」

「分かりました」


 一礼すると、その職員の男もソリを押していき……その姿が見えなくなったところで。キコリはクーンに「どう思う?」と聞いてみる。


「うーん……まあ、現場を見てなきゃ難しいよね」

「だよなあ……斧が通用すれば、あんな事言わせなかったのに」

「でもそれはそれで激戦だったんじゃない? いい斧でも一撃とかいかなかったでしょ」

「だよなあ……」


 結局のところ、キコリの魔力の少なさは問題だ。

 今回は通用したが、もう少しビッグゴブリンの魔力耐性が高ければキコリの「破壊魔法ブレイク」は無駄撃ちに終わったかもしれないのだ。


「……強くなりたいな」

「それは僕も痛感したなあ。まさかキコリの真似することになるとは……」

「なんだよ、実際効果的だっただろ、アレ」

「そうだけどさ。やる度に『ごめん』って気分になる……」


 そんな事を言いながら、キコリとクーンは歩いていく。

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