何か『変』だ

 しかしまあ、頼まれたものは仕方がない。

 キコリとオルフェは妖精村の外に出て、周囲を歩き始める。


「変なゴブリンか……どんなのだと思う?」

「さあ。でも変って言うからには相当変なんでしょうね」


 キコリの問いにオルフェはそう返すが……事実、感覚的にモノを見る妖精が「変」と言うからには外見だけに限らず、魔力といった点から見ても相当に変なのだろう。

 とすると……異常進化体である可能性は、非常に高い。キコリはそう考えながらオルフェを手元に抱き寄せて。


「ちょっ……」


 ガン、と。先程までオルフェが居た場所を矢が通り過ぎ木に刺さる。


「はっ!? 攻撃!? 噓でしょ、何も感じな……っ!」


 更に数本の矢が飛来し、オルフェが目を見開く。

 庇うキコリの鎧が矢を弾き、その矢を視認することでオルフェは気付く。


「……風の魔法を矢に籠めてるの? なんて器用な!」


 矢が空気を揺らさないのであれば、視認されない限り相手は気付くまい。ネタ明かしをすればそれだけのこと。そうだと気付かれれば対策されてしまう程度のそんな手品に近い。

 けれど、それでも気付かれなければ必殺。そんな技を……!


「オルフェ!」

「ええ! ウインドショット!」

「ゴゲッ!?」


 木の上で弓を構えていた、やけに装備の良いゴブリンが木から落ちて……そのまま動かなくなる。

 キコリたちはそのゴブリンに駆け寄り、木から落ちたダメージで死んでいることを確認する。


「あんな手ぇ使う割には間抜けな最期ね」

「うーん……確かに。なんか技だけ覚えて後は普通のゴブリンって感じだよな」


 一芸特化、という言葉がキコリの中に浮かぶが……それにしても行き過ぎている。

 オルフェに気付かれないような矢を使う割には、それ以外が何もない。

 そこから繋がる何かも、それ以外の何かも……何も、ないのだ。

 それは何か、妙な違和感をキコリに感じさせていた。


「変なゴブリンって……コレだと思うか?」

「違うと思う」

「だよな」


 変な技を使うゴブリンであっても、変なゴブリンではないだろう。

 きっと技がどうこうなどという話ではなく、もっと……。


「……となると、お前等でもないよなあ」


 やはり装備の良いゴブリンたち……キコリたちを囲むように展開しているゴブリンたちを見ながら、キコリは呟く。

 どうやら周囲の草むらに偽装しながら潜んでいたようだが、工夫を戦術に昇華させているのだろうか?

 ゴブリンらしからぬ、統一された意志のようなものをキコリは感じていた。

 それはまるで、かつてニールゲンが襲撃された時のような……そんな何者かの意志の下に統一されている時のような、そんな感覚だ。いや、それよりもっと……!


「キコリ」

「ああ。こいつら……何か『変』だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る