死の神ネヴァン

 神々しい。アイアースがそんなことを思ったのは、過去に1度だけ。

 ドラゴンになった直後……そう、竜神ファルケロスに会ったときだけだった。

 その時の気配と、よく似たものを目の前の男からは感じる。


(……いねえな)


 軽く周囲に視線を向けても、キコリはいない。

 それにこの場所……アイアースが先程までいた場所と全く違う。

 何もかもが破壊しつくされ、床だけが残った廃墟。夕日に照らされたかのように真っ赤な夜空。

 たとえるなら、そう。まるでこの世の……。


「この世の終わりの光景のようだ、と思うかい?」

「お前……俺様の心を」

「読めはしない。ただ、私でもそう思うからね」

「そうかい。で? お前がこの世界の神だな」


 緑色の長い髪と、穏やかそうな目が特徴のゆったりとした服装の男。

 キコリが祈ったらどうこうと言っていたのと同じ、この状況。

 どう考えてもこの男が神で間違いない。しかしそれならば1つ疑問もある。

 あるが……まずは相手の出方を見るべくアイアースは無言。

 すると、神は少しばかり意外そうな表情になる。


「確かに私がこの世界の神……の1人だ。死の神ネヴァン。この世界に残された最後の神でもある」

「最後だあ? ん? てこたあ、この世界の神はまさか」

「そのまさかだ。私を残し全て消えた。私は彼等と一緒に行くことすら許されなかった」

「いやいや待て待て、情報を次々ぶち込もうとするんじゃねえ。こっちは異世界から来てんだ。順番に行こうぜ……まず1つ目。この世界に神はお前しかいねえ。それは分かった。んでもって世界がこの状況ってんなら……『何かに負けた』。そうだな?」


 アイアースの質問にネヴァンは頷く。同時にアイアースは思わず天を仰いでしまう。

 なんということか。この世界は本気で滅びかけている。

 神は死の神なんていう縁起の悪い神しか残っておらず、恐らく世界を滅ぼしかけているモノも健在。そしてアイアースたちには、この世界を抜け出す手段がない。


「なんてこった。想像以上にどうしようもねえ場所に来ちまった……」

「それで、君は異界の守護装置だな。何故こんな場所にいる?」

「ああ?」

「君から異界の神の力を感じる。本来はこんなところに居てはいけない存在のはずだ」

「こっちにも事情があるんだよ。で、こっちの神の力で元の世界に帰ろうと思ってたんだよ」

「そうか……それはすまない。時空の神が健在であれば手段もあったんだが」


 言いながら、ネヴァンは「それより」と続ける。


「聞きたいことがある。君は何故、破壊神と一緒にいる?」

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