お前がビビってるアイツはな
「何故も何も……成り行きだけどよ」
「な、成り行き!? 成り行きであんなモノと一緒にいるのか!?」
「あー、やっぱりわざとキコリを此処に呼んでねえんだな。俺様より余程真摯に祈ってただろうによ」
「笑わせないでくれ! 破壊神が真摯に祈ってぐおっ!」
スタスタとネヴァンに近づいていったアイアースのボディブローがネヴァンに炸裂する。
単純に腕力だけなのでネヴァンには大したダメージは無いようで、アイアースは思わずチッと舌打ちする。
「な、何をするんだ!?」
「パンチ」
「そんなことは聞いていない! 何故私を殴ったんだ!?」
「ムカついたから」
「君は異界とはいえ守護装置としてそれでいいのか!?」
「いいんだよ。俺様はずっとコレでやってる」
面倒くさそうに答えるアイアースを、ネヴァンは信じられないといった表情で見る。
実際信じられないのだ。どの世界にも神の眷属である世界の守護装置たる存在はいるが、大抵はその役目に選ばれた誇りと自負を持っている。
しかし、目の前のアイアースのなんと不遜なことか。異界の存在ということを差し引いても、神にボディブローを迷わず入れに来る守護装置が何処にいるというのか?
それがネヴァンには全く理解できないのだが、アイアースとしては「ムカついた」だけで充分な攻撃理由になる。ムカついたら通りすがりのシャルシャーンにだってドラゴンブレスを吐くのが「海嘯のアイアース」というドラゴンなのだから。
そしてアイアースは今ちょうど、目の前のネヴァンにムカついていた。ならばこうなるのは、少なくともアイアースにとっては当然の結果であった。
「し、信じられない奴だな……!」
「あのなあ。お前が呼ばなかったキコリって奴はな、底無しの馬鹿で間抜けだ。誰にも期待してない風を気取って、心の底じゃ愛に飢えてる寂しがり屋だ。誰でも持ってる幸せってやつを誰よりも欲しがってて、代償無しじゃそれが貰えないと信じ込んでやがる」
「それが、何だというんだ」
「分かんねえか? お前がビビってるアイツはな、当たり前の好意1つでお前を味方に分類するか迷っちまう奴なんだよ」
そう、ただそれだけでキコリはこの世界の事情について迷ってしまうだろう。
それがキコリの持つエゴだから。「死王のキコリ」とは、誰もが持っている当たり前の幸せを欲しがって。それを手に入れるために死の山を築き、その山の中に一歩間違えれば自分も混ざってしまう危機に突っ込むような……そんなドラゴンだからだ。
「この後どうするつもりだテメエ。お前はこの世界の神には愛されなかったとか俺様に伝えさせる気か? この場で絶滅してえのか、クソ神がよお……」
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