尽きることなき悪意

「君がアレをどう思っているかは分かったが、私としても譲れないものはある。この世界は他ならない破壊神ゼルベクトによって破壊されたのだからな」

「はあ? そりゃ随分昔の話だろ? ゼルベクトはもうずいぶん昔に死んであいつに転生したんだからよ」


 アイアースからしても「遥か昔」と言ってしまえるような昔の話だ。

 色々あったのは同情できないでもないが、そんな超大昔のことで今の「キコリ」を恨まれてもアイアースとしては「しつこい野郎だ」という感想にしかならない。


「しつこい野郎だ。そんな何百年前かも分からない話を延々と」


 だから全く我慢せずにアイアースがそう言えば、ネヴァンは「ああ、そうか」と何かに納得いったような表情をする。それは今までかみ合わなかった会話がようやくかみ合ったとでも言いたげな、そんな風であった。


「……破壊神ゼルベクトは、1人ではない」

「あ? 意味が分かんねえぞ」

「端的に言えば、あれは自然神なんだ。私のような『神として生まれた神』とは生まれ方が違う、『祈りが形を得た神』だ」


 そう、神にはそういうものがある。太陽に、空に、大地に、風に……様々なモノに人々が祈りをささげた結果、そういう神が生まれ出る。大抵は自然などを元に生まれ出るため「自然神」とも呼ばれている。大抵は「より良い明日を」という願いを受けて生まれ出る、そんな神々だ。

 しかし……時として、そうではない神が生まれ出る場合がある。

 未来ではなく、夢でもなく。悪しき祈りが形になる場合があるのだ。

 不幸を、後悔を、絶望を、全ての「光」の破壊を。

 けれど、そう。そうしたものは自分には降りかからないでほしい。自分以外の誰かが自分よりも不幸になってほしい。

 そんな身勝手な祈りが形を得てしまうことがある。

 ありとあらゆる世界で共通する、尽きることのない悪しき願いが神となる。

 祈った者たちとなんら関係のない何処かの世界で、ただひたすら破壊をもたらすために。


「その手段として、ゼルベクトは駒を送り込むことがある。その形は様々だがね」


 だがその結果は変わらない。ゼルベクトの代行者に成長し、やがてゼルベクトそのものになる。そして世界を徹底的に破壊し、何処かに飛び去っていく……次の世界を壊すために。

 それが破壊神ゼルベクト。尽きることなき悪意を体現する、神殺しの神なのだ。


「この世界では、私を除く全ての神々の命と引き換えにようやく滅ぼし……それでもなお、この世界を蝕み続けている」

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